「スキがないオトコ」の采配いかに

かつて取材したとき、高橋選手のオーラに驚いたことがある。たしかに爽やかな雰囲気だったのだが、目力が強かった。根性がある選手なんだろう、との印象を持った。

慶大時代の友人のコトバを借りると、「どこからみてもスキがないオトコ」なのだそうだ。つまりは「準備」と「ハードワーク」を怠らない。それゆえ高い通算打率(2割9分1厘)や、プロ野球・シーズン最多記録の初回先頭打者本塁打(9本=2007年)を残したのだろう。

柔和なイメージにだまされてはならない。ガッツはある。G党でも何でもないのに、からだを張っての外野守備には心で拍手を送ったものである。だから、けがが多かったのだが。

使命は、「とにかく強いジャイアンツを作ること」である。世代交代を図りながら、日本一を奪回することである。準備でいえば、球団は来季、1、2軍の下に3軍を新設し、若い選手を鍛え、育成を図っていくことになった。

背番号は『24』のままである。高橋氏のイメージを大事にしたということか。では、自身がいう「らしさ」とは何なのか。打ち勝つ野球か、守り勝つ野球か、それとも投打のバランスのいいスキのない野球か。これからヨシノブ流が見えてくることになる。

復活のカギとして、高橋新監督は主軸の阿部慎之介捕手、長野久義外野手、坂本勇人内野手、菅野智之投手、内海哲也投手の投打の主力の5人を挙げた。

繰り返すが、40歳。己の境遇に最善を尽くす人生。巨人という重圧のもと、どう自分の色を出していくのか。

28日、秋季練習が始まり、“高橋巨人”が航海に乗り出した。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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