ここで忘れてはならないのは、出資するのは中国側で、彼らこそリスクを負っているという事実だ。命の次に大切なお金を溝に捨てる経営者がいないのは日本も中国も同じ。自信たっぷりの見た目からは感じ取れないかもしれないが、中国側も不安で仕方がないのだ。互いの違いをあげつらうだけでは問題の解決につながらない。相互理解なくして事業の存続はありえないのだ。

先述した「中国企業家」の特集から読み取れるのは、中国側も自分たちから見た日中の違いを冷静に分析し、調整しようとする姿。なかでも印象的なのは、10年6月に共同でEC(電子商取引)事業「中国商城」「淘日本」を開始したソフトバンクとアリババの提携における内部事情に関する記述だ。両者の間で生じた「予想以上の文化衝突」について、アリババCEO馬雲氏の言葉を借りて次のように紹介されている。

「中国と日本を比較すると、仕事へのやる気と変化への対応は確かに中国が強いが、チームワークや仕事への責任感は日本に利がある」「中国企業は考えがまとまらないうちに走り始めるが、日本企業は目標を定めてから仕事を開始する」。そのため、日本側は計画的な事業の進捗を目指すあまり「10万回のなぜ?」を繰り返し、中国側はそれに強く反発した。その経緯から馬雲氏は「アリババ国際化の原則は、自らの商業モデルを未知の市場に強要しないこと」だと確信したという。

そういう意味で、04年10月に中国の上海電気集団の傘下に入った老舗の工作機械メーカーである池貝のケースは注目していい。当初、買収が決まった際には技術流出を危惧する声もあったが、技能やノウハウが凝縮された大型機械の製造については国内工場にとどめており、懸念されたような事態は起きていない。また、上海で100%出資の現地法人が旋盤の生産を開始するなど、再起の道を順調に歩んでいる。

関係者によると「もともと上海電気集団は資金援助ということで、日本の本社や工場のマネジメントに口を出すことはなかった。このことが成功の一番の要因ではないか」という。「金は出すが口は出さない」といった池貝の事例は、中国企業によるM&Aを成功に導く一つの道筋を示しているだろう。