クリスマス商戦に沸く昨年12月、松坂屋銀座店のエスカレーターを上がると、6階で賑わいが消えた。中国家電量販大手の蘇寧電器から資本支援を受けたラオックスが前月にオープンした店舗があり、初めこそ「中国小売企業の銀座進出」と話題になったが、尖閣事件以降、中国人観光客の激減で閑古鳥が鳴き始めていたのだ。そうした影響もあり、5期ぶりの黒字転換を見込んでいた同年12月期の連結経常損益は赤字に下方修正されている。

「以前なら日本のお客さんと立ち話なんてできないほど、フロアに中国客があふれていた」。手持ち無沙汰な日本人社員は「この先どうなることやら」と不安を隠せない様子だった。2009年8月の買収後、中国人客に特化した事業転換で新規採用の若い中国人女性社員が増えた。銀座店でも12月上旬まで多くの中国人女性社員の姿が見られたが、今はいない。商品構成も日本人客向けに一部切り替えられている。

帝国データバンクのデータによると、10年6月時点で中国企業が出資する日本企業は約600社。5年間で2.5倍へ増加している。同社産業調査部の内田修さんは「中国企業から見た日本の魅力は、技術、ブランド、不動産。09年以降、蘇寧電器のように経営破綻した企業のスポンサーになる中国企業が増えた。今後、成功事例が生まれるかが鍵だが、日本企業も新興国企業との関わりは避けられない」と語る。

もっとも、中国の対日投資総額は日本の対中投資と比べれば微々たるもの。しかし裏返してみれば、多くの日本人ビジネスマンにとって中国企業による日本企業のM&A(買収・合併)は未知の世界の話。それだけに「中国人上司に中国人部下」という職場環境に放りこまれたらどうなるのか、不安がつきまとう。中国経済の隆盛を背景に「買収されてハッピー」などのお気楽な見方もあるが、実際に買収された日本企業の社員は複雑な思いでいる。

中国企業から出資を受けたある企業の社員は、中国側幹部一行による本社訪問を受けたときのことについて、「社内では傘下になったわけではないと説明されていたものの、やっぱり買収されたんだなと実感した」と話す。一行と日本側一般社員とのコミュニケーションの場はなく、まるで大名行列を見ているかのようだったからだ。

中国企業の傘下に入ると、雇用や労働条件、人事評価はどう変わるのだろう。終身雇用、年功序列型賃金など日本独自の労働環境に馴染んできた社員ほど不安は募る。提携によって豊富な資金と、13億人もの巨大市場へのアクセスが可能になったものの、具体的な市場開拓の戦略が見えてこないことも、疑心暗鬼を生じさせる要因の一つになっているようだ。

(中日翻訳小組(杉崎廣子・古都詠子・原田寧々)=翻訳協力)