出版社の宣伝会議では毎朝、午前9時から全社員が出席する朝礼を行っている。マスコミ業界では実に珍しいことだ。朝礼を導入したのは現会長の東英弥氏で、彼が経営に携わった1992年からのこと。東会長は同社の業績が思わしくなかったときに経営に参画し、業績を伸ばした人物だ。

発言の際は、どうしても声が小さくなりがち。メガホンは東会長の発案で赤と青が使われている。

発言の際は、どうしても声が小さくなりがち。メガホンは東会長の発案で赤と青が使われている。

「私は25歳のときにたったひとりで広告代理店を創業しました。そこは現在、社員が62名の会社になっています。ほかにも私が手がけた会社は全部で11社ある。どの社でも朝礼をやりました。私は起業したとき、毎朝、机の上を自分で拭いてから、ひとりで朝礼をやりました。気構えって言葉があるでしょう。だらだら仕事を始めるのが嫌だったから、たったひとりでも朝礼をやった。そうしたら、社業が順調に伸びたというか……」

ひとり朝礼では、電通の中興の祖、吉田秀雄氏がつくった「鬼十則」を朗々と読み上げた。「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない」から始まる気迫あふれる言葉を読み、仕事に臨んだのだ。そんな気迫は現在の宣伝会議の朝礼にも表れており、社員たちの表情は自然とひきしまっている。

東氏は朝礼におけるスピーチについて、次のように語る。

「スピーチは今日伝えたいことをぱっと伝えるのが目的。従業員を導いてやろうとか鼓舞しようなどと思わず、感じたことを正直に話す。言葉を飾らない。それがスピーチのコツです」

宣伝会議の朝礼スピーチを見ていると、声の小さい人はメガホンを持って話している。学生運動のリーダーはメガホンに口をあてて、やたらと怒鳴っていた。しかし、宣伝会議の人たちは怒鳴るわけでもなく、静かに話している。はたから見ていると、ユーモラスな光景で肩の力が抜ける。宣伝会議は厳しさだけを追求している会社ではない。

(尾関裕士=撮影)