積極的平和主義は新しい世界観ではない

戦後70年が経過した今日、日本は先進工業国の恵まれた立場にある。恵まれた先進国としての責任、加えてノブレス・オブリージュ(社会的上位者の義務)として、世界に対してどんな働きかけをしていくのか、どのような貢献ができるのか、日本の世界観というものを発信できる、否、発信すべき立場になった。

戦後70年の首相談話はどのような内容になるのか。写真=時事通信フォト

ちなみに集団的自衛権や日米ガイドラインなど安倍首相が推し進める“積極的平和主義”は新しい世界観ではない。25年前の湾岸戦争の頃からアメリカが求めてきた“bootson the ground”という前世紀の世界観である。

環境問題や難民問題、疾病対策など、世界の平和と安定に資する活動に国民の総意でコミットする。地球村の住人として、恵まれた国の責任として、恵まれた国に生まれた国民の総意として、世界に貢献する。そういう方向性を打ち出せれば、これは今までにない世界観になると私は思う。

たとえば世界タックスという考え方がある。日本国民が納める税金の何%かを日本以外のために使う。これは世界から好感される一例だろう。

実際、国連供託金やIMF(国際通貨基金)、世界銀行などの国際機関に対する資金提供、さらに国別のODA(政府開発援助)その他、日本が世界のために供出しているお金を全部足し合わせれば、結果的に税収の10%ぐらいの額になっている。ところが、バラバラと五月雨式に使っているから、世界貢献のアピールになっていないし、国民の実感も乏しい。世界タックスのような形で全体の方針として打ち出すことが大事だ。

70周年談話では、そういうものを打ち出してほしい。さらにそれを具体化するために、新しい日本の門出を期すために、新しい憲法の草案に取り掛かることを宣言できれば一番いい。つまり、単なる口約束ではなく、新しい憲法で国民のコミットメントを固めたいと宣言するのだ。

私は憲法をゼロベースで書き直すべきとする「創憲」派で、自分でも憲法を書いている(詳しくは著書『平成維新』の「日本の国家運営の新理念」というチャプターを読んでほしい)。70年前につくられた現行憲法は不備が多く、体系的にも歪いびつで、フレームワークがない。先進国になった日本の実情に噛み合っていない箇所も多い。

安倍首相が目指しているような改憲、もしくは公明党的な “加憲”(現行憲法に環境など新たな理念を加える)では、アメリカをはじめ世界の理解を得るのは難しい。しかし、戦後70年、日本を守護してくれた憲法の精神を引き継ぎながら、前述のような世界観に基づいて世界に積極的に貢献していく、という決意を述べた憲法を、70周年を記念して創設したいとアピールすれば、賛同も得られやすいのではないだろうか。軍事的手段を用いない、と自制・反省する憲法よりも、世界にどう貢献していく覚悟なのか、を世界に新たに誓う、そんな憲法を創設したいものだ。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
【関連記事】
なぜ、総理の米国スピーチを世界が絶賛したか
日本はいま、戦前と同じ道を歩んでいるのか? -作家 浅田次郎
安倍首相の靖国参拝、知られざる波紋
「変化と適合」日本人の強さ、ここにあり -「フィナンシャル・タイムズ」アジア編集長インタビュー
なぜ安倍政権は憲法改正を目指すのか-船田元(自民党憲法改正推進本部長)