アメリカが最も触れてほしくないこととは?

今夏、安倍晋三首相が発表する「戦後70周年の首相談話」に注目が集まっている。

節目の首相談話といえば、戦後50周年(1995年)の「村山談話」と60周年(2005年)の「小泉談話」があるが、この2つの談話には共通の文言が使われている。

「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」

「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」――。

今回の談話ではこうした文言がどこまで踏襲されるのか。内容次第では安倍首相の歴史認識が再びただされるということで、国内外のメディアが関心を寄せている。歴史認識について安倍首相は「歴代内閣の立場を全体として引き継いでいく」としているが、文言をそのままなぞるつもりはなく、「未来志向」の文言で上書きしたい意向のようだ。

70周年談話のオーディエンスは主に4人いる。日本国民、アメリカ、そして中国と韓国である。4人の聴衆の中で日本政府が一番気にしている相手はアメリカだろう。

日本に応分の国防負担を求める一方、アメリカは歴史認識や防衛費の増額、集団的自衛権行使容認などで安倍政権が近隣諸国との関係をこじらせている状況を決して好ましく見ていない。たとえば尖閣諸島を巡って日中間で偶発的な戦闘でも起きれば、日米安保に基づいてアメリカは日本に加担せざるをえなくなる。それを一番恐れているのだ。

「日本は戦後の総括がしっかりできていないから近隣諸国と揉める。戦後70年の総括をきちんとやって、近隣諸国との関係改善に努めよ」というシグナルをアメリカは送っているのだ。

アメリカが70周年の首相談話に望んでいるのは、日本を平和国家へと導いたアメリカの功績を大いに褒めあげることだ。マーシャルプランやガリオア資金(占領地域救済政府資金)のおかげで敗戦の苦境を乗り越えて復興を果たし、占領政策のおかげで戦前の独裁国家から民主国家として生まれ変わり、日米安保の下で経済に専念できたから高度成長を成し遂げ、先進国として世界に貢献できる立場になった。アメリカさん、ありがとう。日米関係こそ、今日の平和国家日本の礎である、と。これはしかし、すでに先の米国上下院での安倍演説でそのものずばりを予行演習し、好評を博している。

逆にアメリカが最も触れてほしくないのが、安倍首相が封印した「歴史の見直し」だ。

政権発足当初、安倍首相は慰安婦問題の強制性を認めた「河野談話」や「村山談話」の見直しに言及していた。日中、日韓の歴史を見直すなら、戦前の植民地支配に始まり、戦時中に日本がやったこと、そして戦後処理や東京裁判に至るまですべてを見直すことにつながる。間違った戦争を起こした日本は制裁を受けて当然、という敗北史観を正し、その敗北史観に基づいて書かれた憲法を変えたいのだ。

しかし歴史を見直すとなれば、原爆投下や占領政策、東京裁判の正当性が蒸し返されて、アメリカ主導の戦後秩序も問い直される。それを恐れるアメリカは、安倍首相を警戒してきた。歴史見直し発言や靖国参拝で国際社会から予想を超えた反発を招き、アメリカから度重なる警告を受けて、安倍首相は本音を封印した。少なくとも首相在任中は自らのライフワークの実現は諦めたと思われる。従って、70周年談話にはアメリカが懸念するような安倍首相の“地金”は出てこないだろう。