現役の僧侶たちと「日蓮」を読破
750年前に生きた人物の実像に迫ろうとしたら、現代の私たちにはどのようなアプローチができるのか。著者で宗教学者の島田裕巳氏は、日蓮が記した論文や書状を手がかりにする方法を取った。幸い、日蓮には単行本にして、およそ6冊分におよぶ遺文がある。島田氏は、それを日蓮宗の現役僧侶たちと一緒に読破していくことで、これまで世に流布されてきたものとは違う日蓮像を見つけようとした。
この勉強会は2003年4月からはじまり、ほぼ毎月第3金曜日の午後に開催され、12年5月まで続いたという。その成果を、この本で島田氏は「日蓮は並外れた知性と教養を備えた人物であった。私は、9年間遺文を読み続けた結果から、そのように結論づけている」と述べている。加えて「日蓮は、根本的には理論家であり、その背後には正しい仏法、正法の確立ということがあった」とも書く。その行動の発露が、時の幕府に提出した日蓮の代名詞ともいうべき『立正安国論』にほかならない。
ところで、あの東日本大震災は、この勉強会が継続中の11年3月11日に発生している。当日は、東京・新宿で行われることになっていた。島田氏によれば「2時46分のことである。まさに勉強会が続いている最中だった。あまりに激しい揺れに、外に出てみると、目の前には西新宿の高層ビルがあった。そのビルが、ゆっくりと揺れている光景が目に入った。当然、勉強会はそこで中止になった」ということである。