「時効の壁」で年金をもらい損ねる元妻

【年金分割パターン(2) 合意分割】

婚姻期間中の厚生年金記録があり、当事者の合意または裁判による按分割合が決まった場合、最大半分までを分割する。

→(例)夫婦共働きの会社員(第2号被保険者)で、結婚している間に夫が納めた厚生年金保険料に対する夫の厚生年金は30万円、妻は20万円だった場合で考えてみましょう。

最大半分まで分割ができるので、夫婦でいた間の合計50万円を2で割った25万円がそれぞれの受取額ということになります。つまり、将来元夫が年金を受け取るときには、本来の受取額(30万円)よりも5万円減額となり、元妻は結婚していた間の元夫からの年金5万円を、自分の年金(20万円)に上乗せして受け取るのです。(編集部注:一般に夫のほうが収入が高い家庭のほうが多いので、夫の年金の一部が妻へ渡ることが多いとされる)

<平均データ>
・申請件数:17,462件
・最も申請が多い年代:40代
・最も申請が多い婚姻期間:10~15年
・離婚による年金額の変動(増減):月額約3万2000円(年間約38万7000円)
※出典:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」より

さて、ここまで離婚時の年金制度についてお伝えしましたが、冒頭のアドバイスを思い出してください。

男性は「元奥様からの請求がないことを願う」、女性は「離婚時の年金分割の請求を!」ということでしたね。

多くの家庭では、男性が会社員として働き、女性は専業主婦か仕事をしていても男性よりも収入が低いことが多いためにこのようなアドバイスになるのですが、ここには「時効の壁」があります。

▼年金分割の請求をあえてしない妻

離婚時の年金分割の請求は、「離婚の翌日から2年」と定められています。

そのため、年金を分割する側に立つことが多い男性には、元奥様が年金分割のことを知らないまま2年が過ぎれば、年金を分割しなくてもよいから、黙っておきましょう……ということになります。それを聞いた男性は「はい、そうします」と姿勢を正して、真剣な顔をして答えます。

その反対に、受け取ることが多い女性が相談にいらっしゃった時には、2年の時効がありますから、知らなくて請求していなかったという事態にならぬよう、離婚後の早い時期に元夫と話し合いをすることを考えるようにお伝えしています。

すると、女性の場合は意外と請求しようと思う人が少ないのです。「もう関わりたくないので、いらないです」という人や、「それを言ってまたもめるぐらいだったら、自分で働いたほうがいいです」という人もいます。女性の離婚時の覚悟の強さも請求率の低さと関連しているかもしれません。

もちろん、気持ちや経済的なことだけでなく、DV(ドメスティックバイオレンス)のように、離婚の原因や状況によっては、お金よりも命が大切! ということもあります。

これから離婚を考える方は、制度を知ったうえで請求する、しないを検討していただきたいと思っています。