実際、橋下が府知事、市長の執政をしていても、大阪を本拠地としていた大企業の本社(および本社機能)の東京移転が止まらない。都構想が企業にとって魅力あるものではない証拠だろう。むしろ移転の動きは加速してしまった。大企業だけでなく、会社そのものがどんどん減っている。大阪維新の会が住民投票に向けて開設しているホームページにも「会社が逃げていく大阪」という項目があり、「大阪市は昭和61年度(1986年度)と比べて、事業所数が24%減少。全国より10%近くも少ない」というデータが紹介されている。維新の会としては、だからこそ都構想が必要といいたいのだろうが、事実は逆だ。

同ホームページ上に大阪市の経済低迷の現状として「経済的豊かさを示すGDPが平成13年度(2001年度)から16%減少。全国と比べても、減少幅が大きい」というデータも出ている。ということは、橋下時代に、大阪経済は下り坂を転げ落ちていることにほかならない。

「都構想が実現すれば、大阪経済が上向く」というようなことを大阪維新の会は繰り返し訴えてきた。しかし、肝心の橋下は「制度を変えたからといって、すぐに経済はよくなるとは思わない」(2012年8月第4回「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会」)と発言している。都構想を進める張本人が、大阪経済の復活に直接の効果がないことを認めてしまっている。都構想を進めなければすべてがご破算になるかのような論法だが、ご破算になるのは橋下の野望だけだ。

さらに残念なことに、「二重行政」の解消が新しいムダを生んでしまっている。かつて維新の会は「大阪都になれば年間4000億円削減できる」と主張していた。その後、どんどん金額が下がり、現在の大阪市役所の試算では年間わずか1億円だ。しかし、住民投票を前に「4000億円という効果はあながち間違いではありません。(中略)これまで何兆円とムダに使ってきた二重行政が今後一切なくなることや、大阪都が実現したことによる経済波及効果を考えると、プラスの効果額は計り知れません」(前出のホームページ)とし、最近の演説会では「財政効果は無限」と主張している。橋下都構想実現には、市内に新しく5つの特別区を発足させ、それぞれに議会、教育委員会、選挙管理委員会をつくる必要がある。維新の会側は、議員も委員も人数は市議会時代と同じだから人件費は変わらないという見解のようだが、議会や委員会を維持するための総務職員のコストは考えていないのだろうか。