所得280万円なら十分負担能力があると考える国
介護保険が改定され、この8月から一定以上の所得がある人の負担が1割から2割に引き上げられることが決定しています。対象者は年間の合計所得金額が160万円以上の人。そのほとんどが高齢者であり、主な所得は年金です。年金の場合、120万円が控除されるので、160+120で年間280万円以上の所得がある人が2割負担になるわけです(編集部注:65歳以上で収入が年金のみの場合。年金収入には、企業年金、確定拠出年金から支払われる年金、遺族年金、障害年金も含まれる見込み)。
また、施設を利用している人で預貯金などの資産が単身で1000万円、夫婦で2000万円以上ある人は居住費などの補助が受けられなくなります。
現在、介護サービスを受けている人のうち、所得が280万円以上ある人は20%だそうです。この人たちが「家計にゆとりの層」とされ、2割負担となります(編集部注:一定以上の所得者に該当する場合、利用料はこれまでの2倍の金額になるが、後述の高額介護サービス費制度があり、負担は上限がある)。
「社会保障の財源がひっ迫しており、消費税を上げてそれを補おうとしているご時世で応能負担は当然だ」
「あの世にお金を持って行けるわけじゃないし、要介護状態になって財産を残しても仕方がない。余裕のあるところから取ればいいんだ」
今回の改定に対する世間の大方の受け止め方は、こんなところだと思います。そして、厚生労働省も今回の「2割負担」をそうした考えに基づいて決めたのでしょう。
ただ、介護現場の実情を知るケアマネージャーからは「大丈夫かな」という声を聞きました。もちろんあり余る財産を持っている人は問題ないでしょう。
しかし、所得が280万円を少し越えているだけの人もかなりいる。在宅であれば、光熱費や食費をはじめ住民税や固定資産税などが必要。高額の医療費がかかる人もいるし、家のローンが終わっていない人もいる。要介護状態では他にもいろいろな費用がかかります。オムツ代だってバカになりませんし、通院のための介護タクシー代は介護保険の対象外ですから、距離によっても違いますが往復で数千円はすぐに飛んでいきます。
また、施設に入居している人は月額20万円近くを払っている人もいるそうです。「280万円の所得があれば余裕があると見られているわけですが、結構ギリギリの生活をしている方もおられます。2割負担になると、受けているサービスを減らさざるを得ない人も出てくるのではないでしょうか」と、あるベテラン・ケアマネージャーF氏は言います。
▼「高額介護サービス費」も高所得者優遇
また、2割負担の規定も不公平な部分があります。
所得は世帯ではなく個人が対象です。
たとえば夫婦で介護サービスを受けているケース。夫の所得が280万円で妻が100万円だとすると、世帯所得は380万円。負担は夫が2割で妻が1割となります。夫、妻とも所得が250万だと世帯所得は500万円ですが、ともに1割負担で済む。世帯所得が多い方が負担は少なくて済むわけです。
まあ、2割負担になったとしても、それが全額利用者にのしかかるわけではありません。「高額介護サービス費」という制度があり、自己負担が一定額を超えると、それ以上払わなくてもよくなるものです。その額も今回、3万7200円から4万4400円に引き上げられましたが、高額所得者でも介護サービス利用料は4万4400円止まりということになります。とはいえ、負担が増えるのは確かです。