営業とは、人と話すこと。だからこそ、ごく小さな会話力の差が成績を分ける。各営業のトップセールスにそのコツを聞いた。
多摩地区の中核である立川駅から徒歩5分。ビル1階のドアを開けると、右側に立花証券自慢の株価ボードが並ぶ。その前で、何人もの常連客が情報交換をしている。立花証券は中堅だが、相場予測に定評があり、海外メディアの取材も多い。
その支店カウンターの向こう側で、柔らかな表情で微笑むのが田島雅明さんだ。入社以来、立川支店一筋に26年。現在は課長として年上・年下の部下を率いながら、顧客250人を抱えている。上司の戸塚博司支店長は「お客様に、最も信頼される営業マンです」と太鼓判を押す。全社で6~7人にしか与えられない「努力賞」を2年連続受賞、同社規定の「マイスター」称号も取ったが、本人は冷静に語る。
「モットーは『勝って驕らず、負けて腐らず』です。入社数年でバブル経済が崩壊して以降も、金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショックと、逆風の時期がありましたから」
金融知識が豊富で、推奨銘柄で顧客を勝たせた経験も多いが、自分から手柄話は話さない。田島さんが心がけているのは、目の前のお客に満足してもらうこと。「ネット取引」全盛のいまも立花証券は「対面営業」が主流だからだ。
田島さんの基本は、まずは挨拶の徹底。「『いらっしゃいませ』よりも返事が戻ってくる『こんにちは』を重視し、『行ってきます』『ただいま帰りました』。『いただきます』『ごちそうさまでした』などは、誰もいないときでも行います」。
言葉遣いは、学生客であっても敬語。服装も、紺かグレーのスーツで通し、黒靴もピカピカに磨いてある。実は手品も得意だが、それも自分からはアピールしない。
対面が主体の立花証券は、お客が売買時に支払う「株式委託手数料」もネット証券に比べて割高だ。だからこそ、ネット証券にはできない、相手心理を考えた対応でお客の心をつかむ。田島さんには、顧客からの問い合わせ電話が頻繁にかかってくる。