スクラム開発がもたらすメリットと、今後の展望
リリース後も開発サイクルを回し続けることにより、「サービスにとってのその時々の最適解をシステムに反映しやすくなった」と志田氏はいう。サイトをリリースした後でも、利用者の反応を見ながら、ニーズのあるところを開発者が即座に機能変更し、アクション数を伸ばしていけるからだ。一方で、スクラム開発により「効果の出ない機能は捨てて、無駄を増やさないことも可能になった」と志田氏はいう。
「リリース後もサイクルを回し続けるので、だめなものはどんどん省いていきます。新たに機能を追加リリースする際も、反応を見て厳しければすぐに捨てます。“検証”という意味合いに近いですね。短期のサイクルを回しているからこそ、いいものは伸ばして、ダメなものはすぐに捨てるという判断ができるのだと思います」
リリース後もサイクルを回すことにより、ウェブサービスや関連するシステムの改善を促すのがスクラム開発のメリット。それにより、利用者のニーズに沿ってサービスを進化させることができてきた。
だが、たとえ最初は少人数でリリースしたものでも、それがヒットすると、どうしても関わる人員が増えて開発チームが大規模化してしまうケースがあるという。そこで今後は、巨大化・分業化したいくつかのシステムを、もう一度開発していくことが課題になると志田氏は考えている。
「チームが大きくなると、どうしても分業型になり、サイクルを回すスピードは落ちてしまいます。そうすると、たとえば大きなシステム変化を迫られた場合に、後れをとってしまうんですね。ですから、大きなチームになってしまったところを、どうスクラム化し、直していくかが今後の重要テーマになります」
また、長い歴史を持ち、アーキテクチャの陳腐化、技術的負債を多く抱えるウェブサイトにおいて、今後、大規模なシステム修正が求められるものもあるという。これらにおいても「スクラム開発の概念を用いて修正していきたい」と志田氏はいう。
「最初からシステム全体の修正に取り掛かるのではなく、先にプロセス期間を決めて、その期間内にチームで出来るところから修正していくつもりです。一気にすべて直すのではなく、サイクルを何度も回す中で少しずつ改善していこうと考えています」
さまざまなウェブサイトが台頭する中で、システムを構築・進化させるにはスピードが欠かせない時代となった。その状況下で、スクラム開発は今後どんなサービス、どんな成果を生み出していくのだろうか。注目していきたい。
志田一茂●しだ・かずしげ
リクルートテクノロジーズ執行役員。1978年、愛知県出身。2006年リクルートへ中途入社。全社のシステムAP基盤の共通化を推進、共通APフレームワークを構築し、各事業サービスへの適用に従事。2011年より、スマートデバイスアプリ(iOS, Android)のアジャイル開発組織の立ち上げ、スマートデバイス戦略を担当。2014年より現職。リクルートグループの主要メディアのアジャイル開発化を推進。