ただ、現場の実態としては、まだまだ課題が残されているようである。東京都板橋区の板橋福祉事務所の話によると、ジェネリックそのものを知らない人が多く、その説明に努めているとのこと。同福祉事務所援護係長の野島浩司氏は、「精神疾患の方で手もとにいっぱい薬がないと安心できないという方もいます」と現場の一端を明かす。
ほかにも、複数の病院を受診して薬をもらう「重複受診」や「重複処方」、必要以上に病院へ通う「頻回受診」などの問題もある。中には、向精神薬を複数の病院から入手して転売するといった悪質な事例も見られた。
こうした問題を発見して解決するために、電子レセプトによる点検の強化もなされている。レセプトとは、医療機関が診療の報酬を国民健康保険や社会保険の保険者へ請求する明細書のことであるが、生活保護では福祉事務所に送る明細書のことを指す。
かつては紙のレセプトを職員が手作業で点検して問題がないか確認していたが、11年度より全国の自治体で電子化が図られ、専用ソフトで効率的に点検ができるようになった。今では、電子レセプトにより転売などの悪質な事例はほぼなくなったという。
また、精神科で睡眠薬をもらった受給者が、ほかに眼科や整形外科などに通院し、そこでも睡眠薬をもらってしまうといった悪意のない重複処方も簡単に発見できるようになったという。
医療扶助の適正化は、ともすると必要な医療すら抑制される恐れがある。生活保護制度本来の目的である「受給者の自立」のためにも、健康を回復させ生活保護費を減らすことにつなげたいところだ。
14年9月より厚労省は、「生活保護受給者の健康管理の在り方に関する研究会」を立ち上げ、具体的な検討を進めている。15年4月には各自治体に通知を出す予定だ。
生活保護から自立した生活に戻ることができるのは、受給後半年ぐらいまでの人が多い。病気などで受給せざるをえない人は、早期に健康を回復させることが重要である。受給者の健康回復や増進は、生活保護を考えるうえで忘れてはならない視点といえよう。