オフポンプ手術導入時は万全の体制を整えた

新聞報道によれば、死亡例は腹腔鏡手術を始めた10年~11年に集中し4人の方が亡くなっているそうです。私自身にも苦い経験がありますが、手術の後、患者さんが思うように回復しなかったり亡くなられたりしたときには、行った手術を反芻し何が悪かったのか徹底的に検証し修正するのは外科医として当然のことです。続けて患者さんが亡くなるようならその手術法自体が間違っているのかもしれませんから、撤退する勇気を持つことも大切です。

4人も亡くなってそのまま続ける感覚は理解できませんし、あってはならないことです。しかも、患者さんへのインフォームドコンセントが不十分で、保険外の手術を保険診療として不正請求したというのですから言語道断と言わざるを得ません。

前にも書きましたが、私自身、他の病院に先駆けて、新東京病院(千葉県松戸市)で心臓を動かしたまま冠動脈バイパス手術を行うオフポンプ手術を始めたときには、海外からビデオを取り寄せてかなり研究してから患者さんに実施したものの、試行錯誤の連続でした。今ほど厳しく科学的根拠が問われる時代ではなかったので、正式な臨床試験として実施したわけではありませんが、患者さんと家族には丁寧に説明してインフォームドコンセントを取り、何かあったらすぐに人工心肺装置を使って心臓を止めて行う一般的な冠動脈バイパス手術に移行できる体制を整え、麻酔科医や臨床工学技士たちの協力もあって、いつも以上に術中術後管理にも細心の注意を払い、詳細な記録を残しながら診療を継続しました。

オフポンプ手術は天皇陛下の手術でも採用した方法で、現在では他に合併疾患がない人に対してもオフポンプ手術が主流です。しかし、最初のうちは、他に合併疾患や年齢的な問題で人工心肺装置を使うと負担が大きい患者さんに対して、オフポンプ手術を実施しました。目覚ましい治療成績を上げたことで新東京病院に全国から患者さんが集まって来ましたし、オフポンプ手術が他の病院にも広がって行きました。人工心肺を使わずに、従来の手術と同じかそれ以上の結果が得られるのであれば、患者さんの体への負担も経済的な負担も少なくて済みます。