軽井沢……日本の先人たちが大切に守り育ててきた自然と文化が残る場所。 そんな場所で地域環境を蹂躙する巨大別荘の建設が進んでいる。しかも、その別荘の主は……渾身の取材でお届けする怒りの告発である。
軽井沢にビル・ゲイツが別荘を建てる――そんな噂が流れたのは2012年冬のことだった。その年の1月、環境アドバイザーの鈴木美津子さんは「木がすべて切られ、ひどいことになっている」と知人から連絡を受けて、千ヶ滝西区の別荘地へ向かった。小高い丘の約6000坪の土地に木が1本もなくなったことを悲しんだ。鈴木さんは伐採予定の樹木を引き取って移植するボランティアを行っている。それだけに、野鳥や小動物たちが暮らす林を簡単に伐採するということが許せなかった。鈴木さんが、噂の別荘を建設する場所が、そこだと知ったのはそれからしばらく経ってからだった。
2月のある日、軽井沢町議会議員のMさんは軽井沢新聞社を訪れ、千ヶ滝西区に巨大な別荘ができるという話をした。それはこんな内容だった。
大成建設の担当者が図面を持って千ヶ滝西区の区長の家を訪ね、丘の上に建設する別荘の計画を説明した。建物の図面は回廊式になっているもので、IT関係にはよくある設計だという。
「中庭があるから電波が入りやすい。別荘地なので夏以外はパソコンを使う人が少なく、丘の上だから木を切ってしまえば、電波が入りにくいという問題はまったくない。東日本大震災があってから東京も大地震がいつ起こるかわからないと心配されているが、軽井沢は岩盤が固く地震の可能性は低い。しかも東京から新幹線で1時間という好アクセス」。Mさんは、「これはマイクロソフト社がアジアの本拠地にしようという計画ではないか」と推測した。
不動産業者からのルートで聞いたという近隣の住民は「ビル・ゲイツは日本好きで京都にも別荘を持っている。孫正義さんと仲が良くて軽井沢も気に入った。この場所を勧めたのは孫さんだよ」と、まことしやかに話す。噂は広がり、「本当の施主はビル・ゲイツの妹だ」とか、「息子の名前になっている」などの情報が入ってきた。
建築申請が会社の山荘ではなく個人の別荘だったことから、マイクロソフトではなく、ビル・ゲイツの別荘だという臆測が強くなった。春になると工事が開始された。建築現場にある看板の建築主は、土地の所有者でもある「株式会社ピーエムリゾート」だった。