横綱相撲のような主役の演技とは

「僕には衝撃を受けた映画がふたつあります。

それが『ディア・ハンター』(1978年)と『レイジング・ブル』(1980年)。

『ディア・ハンター』はちょうどロサンゼルスの試写会で見て、もう感動して体の震えがとまらなかった。デ・ニーロがいいんですよ。出しゃばらない演技なんだけれど、ちゃんと主役の存在感を出していて、それだけじゃなく、自分が機関車となって、脇のクリストファー・ウォーケンたちをうまく引っ張っている。

ああいうのが主役の演技じゃないでしょうか。ちょうど横綱相撲のように。

『レイジング・ブル』もデ・ニーロがよかった。あれは11回も見ました」(『高倉健インタヴューズ』プレジデント社)

『ディア・ハンター』はベトナム戦争へ出征したアメリカの若者を描いた作品だ。なかに出てくるロシアン・ルーレットのシーンがよく知られている。高倉健の説明がなければ「ずいぶん長くて暗い映画だな」くらいの感想しか持たないが、ロバート・デ・ニーロに注目しながら見ていくと、確かに、彼は「機関車のように」助演の俳優たちを引っ張っている。また、クリストファー・ウォーケン、ジョン・カザール(ゴッドファーザーの次男の役)など、本当にうまい役者だと思ってしまう。

『レイジング・ブル』は実在のイタリア系ボクサー、ジェイク・ラモッタの生涯を描いた作品だ。デ・ニーロはこの役でアカデミー主演男優賞を受賞している。ボクサー時代と引退してから肥満した主人公を演じるため、デ・ニーロは牛乳とビールをがぶがぶ飲んで、体重を27キロも増やした。

役作りのためなら自身の健康など屁とも思わないのがデ・ニーロだ。高倉健はそうしたデ・ニーロの心情にもシンパシーを感じたのだろう。