国民負担は1年で2.7兆円、20年で50兆円
さらに、太陽光発電事業者を儲けさせた“ツケ”が国民負担として跳ね返る。それが毎月の電気料金に上乗せされてくる「再エネ発電賦課金」だ。すでに認定された7000万キロワットが、すべて稼働すると1年間の賦課金総額は約2.7兆円となる。買い取り期間が10~20年続くため、総額は50兆円にものぼり、これは国民1人当たり40万円の負担になる。FITはこうした利権構造を発電事業者に保証してしまったと朝野氏は話す。
「同じようなことはヨーロッパでも起きていました。やはり調達価格が高くなりすぎたドイツでは毎月買い取り価格を切り下げ、スペインも価格を見直しましたが、発電事業者の株が暴落し、訴訟騒ぎにまで発展したのです。日本はこうした前例から何も学ばなかったといっていいでしょう。なおかつ、これまで認定し、運転開始した設備については遡及して買取価格などを見直すことは現在の法律ではできません」
そもそもFITという制度は、地球温暖化対策の一環であり、二酸化炭素(CO2)を発生する化石燃料を減らして再エネの導入を促進するために欧州ではじまったものだ。日本においては、民主党政権の環境政策として、当時の鳩山由紀夫首相が「2020年に温室効果ガスを1990年比で25%削減する」と国際公約をしていた。政府はこれにもとづいて、原子力発電の比率を50%以上にするエネルギー基本計画を立てた。
ところが、2011年3月11日の東日本大震災がすべてを狂わせてしまう。福島第一原発の事故に端を発する原子力発電の全面停止は、電力危機の懸念を一気に加速させたのである。当面は火力、それもそれまで稼働を止めていた旧式の火力発電所まで総動員して急場しのぎをすることになる。そして、再エネの活用が喫緊の課題になっていく。
実はFITの閣議決定は、その「3.11」の午前中になされていた。まさに皮肉な運命のいたずらというしかないのだが、その後の拙速な国会審議で現行の制度になっていく。朝野氏は「もっと安く再エネの導入を増やす道はあります。世界的に見れば、最近は市場をゆがめないために、入札制度を取り入れて競争原理を働かせているところも多い」と語る。中長期的な視点で再エネ発電の健全な育成も可能になるはずだ。