もったいないマイマイ

バイ貝か、ツブ貝か、と近づいて観察すれば、殻の長さはざっと10cmほどで、どうやらでんでん虫、カタツムリのようである。見るからにうまそうで、海と陸の違いはあっても、エスカルゴの例もあるし、食えなくもないのではないか、とレジ袋へほいほいともぎ取って投げ入れ、ホテルへ戻った。

にこにこ顔で、収穫物を研究者に見せたら、

「どうしたのですか、こんなもの」

驚いている。

「エスカルゴにでも」

「ダメです。すぐ手を洗って。これは私が処分しておきますから」

なんでもアフリカマイマイといい、広東住血線虫を媒介し、仮に寄生されると髄膜脳炎を発症、死にいたる例もあるとか。説明注意され、私のよだれもたちどころに消え失せた。

後日、帰りの空港で、アフリカマイマイの写真入りポスターに気づいた。接触してはならない、他所への持ち込みは厳禁、とあった。到着時に気づいていれば、たぶん、蒐集なんぞしようとは思わなかったであろう。げに無知のなせる愚行よ、とおおいに恥じ入った。

それにしても、こんな外来生物がなぜ宮古島で繁殖したのか。聞くと、戦中、食糧難の時代に食用として持ち込まれ、塩ゆでにして食されることもあったとか。かの寄生虫も熱には勝てず、茹でたり焼いたりすれば大丈夫らしい。現に、海外ではエスカルゴの缶詰めにこれを代替したものもあるとか。

ちなみにエスカルゴの水煮缶詰は82kcal/100gで、意外と熱量も栄養もある。バイ貝は87kcal/100gで、ツブ貝は、86kcal/100gと、大差ない。

血中の尿酸だって排出する薬があるのだから、カタツムリに与えて、寄生虫を除去する虫くだしのひとつくらい開発されてもよさそうなものだ。安全な食物にできたら、何も目の敵にして殺さなくても、おいしくいただけるものを、と勝手な妄想を抱いてしまう。

(佐久間奏=イラストレーション)
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