どのシナリオを使うべきなのか、仮説を立てて騙す
詐欺においては様々なシナリオが準備されており、相手から聞き出した情報をもとに、どのような手口で騙すのかを考える。「この場合、こうすれば、金を取れるだろう」というプロットを考えるのだ。いわば仮説思考である。
仮説思考とは、言うまでもなく、仮のゴール設定をしてから、その実現への筋道を考えることである。結論を先に出すことで、これから行おうとすることの全体像をつかむことができ、効率よく作業を進められる。
先ほどの詐欺事例でいえば、高齢者のもとへ警察を騙って電話をかけ、口座のある銀行名などを聞き出す。そのひとつに偽造事件になった銀行がある場合、銀行への不信感を煽れば、容易にお金が取れるのではないか。そのようなストーリー(仮説)を考え出す。
70代女性宅には、A社から架空の医療法人の事業債が購入できるというパンフレットが送付された。しばらくすると、ある業者から「これは、年金をもらっている人だけが優先的に購入できるようになっているものです。当社が事業債を高値で買い取るので、ぜひとも購入してほしい」という電話がかかってきた。
しかし女性は、これを詐欺の電話だと見抜いた。
そこで「これは詐欺でしょう」と言って毅然と断った。普通なら、これで撃退できたと思うはずである。ところが詐欺犯はこの思いを逆手に取り、次の手を考えて電話をかけてきた。
しばらくして、弁護士を名乗って女性宅に電話し、こう脅してきたのだ。「あなたはA社の社員が行った勧誘に対して詐欺呼ばわりしましたね。A社は法律を守り、投資事業を行っている会社です。それにもかかわらず、あなたは社員を詐欺犯のように扱いましたので、名誉が傷つけられました。これは名誉棄損という立派な犯罪行為です」
「弁護士」からきっぱりとこう指摘され、犯罪行為をしてしまったと動揺している女性に、詐欺犯は先の事業債を購入すれば、この件を穏便に済ますと畳み掛け、数百万円を騙し取っている。
この事例では、詐欺犯らは「お金を騙し取るのに失敗した」という事態に直面するが、軌道修正し、新たな騙しのストーリー(仮説)を考えだしたのだ。仮説というものは、仮の答えなので、それが失敗する(間違えている)こともありえる。それゆえに、仮説に誤りを見つけたら、改善して新たな仮説を生み出し、よりよい解決策(正解)へと近づけていくのだ。