外航商船の約6割の運航をサポート

ウェザーニューズの創業者の故石橋博良氏は、かつて商社で輸入木材の用船を担当していた(石橋博良『世界最大の気象情報会社になった日』IDP新書)。船が入れば港に出かけ、現場の人たちと仲よくなる。若き日の石橋氏は、そんな仕事ぶりで、実績をあげていた。そんなある日、石橋氏が担当した船が冬の嵐で遭難した。石橋氏の衝撃は大きかった。

「本当に役に立つ気象情報があれば、この事故は防げたかもしれない」

悶々とした日々を過ごすことになった石橋氏は、やがて商社を辞し、オーシャンルーツという新興のアメリカの航海気象情報会社の日本支社に転じた。気象情報サービスの事業性に目覚めた石橋氏は、その後新領域での気象情報事業を行うウェザーニューズを創設し、独立する。そして1993年、設立後7年を経て業容を拡大したウェザーニューズは、オーシャンルーツを逆買収し、世界最大の気象情報会社となる。現在では、世界の外航商船1万隻のうち、約6000隻の運航をウェザーニューズはサポートしている。

現在のウェザーニューズは、航海気象以外に40を超える分野で、気象情報サービスを展開している。同社の近年の売り上げはB to BとB to Cの事業に二分される。つまり年間60億円前後は、一般消費者向けの事業による売り上げなのである。

TVやネットで無料でわかる気象情報に、消費者はなぜ対価を支払うのか。休日に外出している人が知りたいのは、東京都全域の降水確率ではなく、自分が今いる場所で天気急変の可能性があるかどうかだ。ウェザーニューズの有料会員は、今ではどの携帯電話にもついているGPS情報により、今いる場所で雷雨の可能性があれば、その通知を受けることができる。そのほかにも路面凍結などのアラーム、星空がきれいに見える夜などを知らせてもらったりすることもできる。

これらのサービスの価格はフルに利用して月額315円。つまり1日当たり10円だ。177番に電話をしても10円かかかることを考えると、値頃感のある価格設定だといえるだろう。

現在ではウェザーニューズは、アジアを中心にグローバルにB to Cの気象サービスを提供している。その有料会員は210万人を超える。

B to Bの事業では、ウェザーニューズは航海気象以外にどのようなサービスを展開しているのだろうか。航海気象と同様のサービスを、空で展開しているのが、航空気象サービスである。大手エアラインの国際便から、警察や消防のヘリコプターまで、同社は、さまざまな事業者に向けて、飛行の安全性や効率性などを高めるリコメンドを行っている。

陸上では、道路気象サービスや鉄道気象サービスなどがある。ここでは、その区間に応じて5キロ、10キロと細かいメッシュでの気象情報を提供していくことが重要となる。一方でこれらの事業者は、道路や鉄路に風速計などを備え、気象データを収集している。ウェザーニューズは契約事業者から、それらのデータを収集するとともに自社で独自のインフラを展開することによって、ピンポイントでの気象予測の精度をさらに高めている。

小売企業にとっても、天候は、商品の売れ行きを左右する重要な要因である。コンビニやスーパーなどでは、気象予報を踏まえて店頭の品揃えを日々変化させている。この対応を成り立たせるには、あらかじめ過去の販売データと気象データとを突き合わせて、どのような天候の変化がどのような商品の販売に影響するかを分析しておく必要があるのだが、ウェザーニューズは小売企業と共同していち早くこの作業に取り組んできた。