小澤征爾さんはなぜ指揮を止めたか

「お客様がタクシーを降りる時に、カペラのポーターがトランクを確認しないはずがない」。前回(http://president.jp/articles/-/12361)の記事を読んだ、あるサービスのプロフェッショナルに言われてさすがだな、と思いました。知人には、カペラの見えない景色が見えていたからです。私は確かにエントランスの手前で、ポーターの出迎えを待たずにタクシーを降りていました。この指摘から、判断にまつわる小澤征爾さんのエピソードを思い出しました。

いまから55年前、フランスのブザンソン市で1959年にオーケストラ指揮者コンクールが行なわれました。そのコンクールに参加した小澤さんは、最終選考の8名に残り、8番目に審査を受けました。オーケストラを指揮し、あるパートで演奏のミスに気づいた小澤さんは指揮を止めます。何度やり直しても演奏のミスは直りません。楽譜をチェックすると、演奏は楽譜通りです。そこで小澤さんは「楽譜が間違っている」と言いました。すると審査委員長から「お見事」という声。「楽譜の間違いに気づけるかどうか」。これが最終審査で試されていたのです。小澤さんは8名の中で、それに気づいたただひとりの指揮者でした。小澤さんの頭の中には正しい楽譜があったのです。

確かな判断基準を持ち、それを拠りどころとして行動する。今回はこのことについて考えてみたいと思います。