小売りと外食の境界をあいまいに

角打ちの広がりは、小売りと外食の境界も曖昧にする。従来なら酒を買う場所が酒販店、酒を飲む場所が居酒屋だった。現在は酒販店で飲み、百貨店で飲み、酒蔵で飲む。飲んで気に入った商品をその場で買って帰る。

消費者から見れば、小売りか外食かという業界側の分類はあまり意味を持たない。「サイゼリヤ」でワインを飲む人もいれば、「日高屋」で餃子をつまみにビールを飲む人もいる。回転寿司で日本酒を楽しむ人もいるし、百貨店の角打ちで1杯だけ飲んで帰る人もいる。

仕事を午後6時に終えた人が、帰宅までの2時間をどう過ごすか。居酒屋へ行く、ファミリーレストランで飲む、中華料理店で1杯飲む、角打ちへ寄る、そのまま帰宅して自宅で飲む。消費者は業態をまたいで選んでいる。

居酒屋が競う相手は、隣の居酒屋だけではなくなった。夕方から夜にかけて消費者が使う時間を、さまざまな業態が取り合っている。そのなかで角打ちは、「30分だけ」「1杯だけ」という居酒屋とは少し違う選択肢を提示する。

ワインも飲める。カウンターでコインを買い、それを入れるとワインが出てくる
筆者撮影
ワインも飲める。カウンターでコインを買い、それを入れるとワインが出てくる

酒の楽しみ方は多種多様

角打ちが居酒屋に取って代わるわけではない。大人数で飲みたい日もあれば、焼き鳥を食べながら何杯も飲みたい日もある。家族で食事をしながら酒を楽しむ人もいる。

角打ちは、そうした需要を奪うより、これまで酒を飲まなかった時間や場所に飲酒の機会をつくる役割を担う。買い物の途中にワインを一杯飲む。百貨店で知らない日本酒を試す。酒蔵で造り手の話を聞きながら味わう。旅行先で地酒を少しだけ楽しむ。従来の居酒屋とは異なる場面で酒と接する機会が生まれる。

だから現在の動きを、昔ながらの角打ち店が復活していると見るだけでは実態を捉えにくい。全国の角打ち店舗数が増えていると示す統計も見当たらない。

白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)
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増えているのは角打ち店そのものというより、「角打ち機能」と考えた方が分かりやすい。酒販店、百貨店、商業施設、酒蔵、イベントなどが、角打ちが昔から持っていた「少量を、その場で、気軽に飲む」という特徴を取り込み、それぞれの商売に合わせて作り替えている。

国内の酒類市場が縮小するなかで、1人の客にたくさん飲んでもらうだけでは成長を描きにくい。それならば、1杯を楽しめる場所や時間を増やすという発想もある。

「大きく飲む」から「小さく飲む」へ。古くからある角打ちがいま再び注目を集めている背景には、酒を飲む量だけでは測れない、消費者の飲み方の変化がある。