「大きく飲む」から「小さく飲む」へ

かつての居酒屋は、客ひとり当たりの飲酒量を増やして売り上げを伸ばしてきた。「とりあえず生ビール」で始まり、2杯目、3杯目へ進む。宴会なら2時間の飲み放題を付ける。会社帰りに職場の仲間と店へ入り、数時間を過ごす飲み方も一般的だった。

こうした飲み方を負担に感じる人が、酒を飲まないとは限らない。

翌日の仕事を考えれば量を抑えたい。2時間を費やす余裕はないが、帰宅前に1杯なら飲みたい。知らない日本酒を一本買うのはためらっても、1杯なら試してみたい。

角打ちは、こうした需要と相性がいい。30分だけ、1杯だけ、1人でも利用できる。買い物の途中にも立ち寄れる。味を確かめてから商品を買えるため、これまで飲んだ経験がない酒にも手を伸ばしやすい。

酒類市場を「飲む人」と「飲まない人」だけに分けて考えると、こうした変化を捉えにくい。飲む人のなかでも、頻度、量、時間、場所、相手が変わっている。

こうした変化は「大きく飲む」から「小さく飲む」への移行と捉えられる。大人数で2時間飲むだけでなく、1人や少人数で30分だけ楽しむ。何杯も飲むのではなく、気になる酒を1~2杯試す。夜だけでなく昼や夕方にも飲む。会社の宴会だけでなく、1人、友人、夫婦、家族など、一緒に飲む相手も広がった。

酒を飲むか飲まないかではなく、どのように飲むか。その選択肢が増えている。

イオンリカーが展開する角打ちの看板
筆者撮影
イオンリカーが展開する角打ちの看板

低価格居酒屋が増えているワケ

コロナ禍以降に店舗を増やした居酒屋と比べると、角打ちの特徴がさらに見えてくる。

「新時代」「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」「大衆酒泉テルマエ」「均タロー」など、いわゆる「居酒屋第4世代」は、若者を中心に支持を広げてきた。

「新時代」の看板商品「伝串」は税込55円。鶏ヤローは居抜きを積極的に使い、出店時の投資を抑える。テルマエでは店内の蛇口から客が自分で酒を注ぎ、セルフサービスを楽しさに変えた。

単純な値下げではない。居抜き、省人化、メニュー構成、調達、SNSなどを組み合わせ、低い客単価でも採算を取れる仕組みを各社がつくってきた。

角打ちは、この「安く飲む」とは少し違う方向から飲酒のハードルを下げる。居酒屋へ入れば料理も注文するし、ある程度の時間を過ごす。角打ちなら1杯だけでも利用しやすい。金額だけでなく、時間や心理的な負担も小さくなる。

低価格居酒屋では競争も激しくなってきた。「均タロー」を展開するジュネストリーは、次の柱として鮮魚酒場「魚えもん」を開発した。新橋店では基本メニューを税込439円に設定しながら、均タローより高い年代も狙う。

もっとも、第4世代全体が失速したわけではない。「新時代」は2026年も出店を続け、全国200店規模まで店舗網を広げた。

ここで見逃せないのは、居酒屋と角打ちのどちらが勝つかではない。低価格居酒屋は価格を下げ、角打ちは量と時間を小さくする。それぞれ違う方法で、酒を飲む際の負担を軽くしている。