ただ酒を飲むだけではない
ジェイアール名古屋タカシマヤは2026年4月、地下2階の和酒売り場に「角打ち 銘酒小路」をオープンした。
特徴は酒だけを選ばせない点にある。「酒器を選ぶところから始まる日本酒体験」を掲げ、日本工芸会東海支部の作家が手掛けた22種類の酒器から好みの一つを選び、その器で日本酒を味わう。東海地方を中心に全国から約20種類の銘酒を集め、日本酒に合うつまみも用意した。
酒器も販売する。気に入った日本酒だけでなく、それを飲んだ酒器まで買って帰れる。
酒はECでも買えるし、価格もスマートフォンですぐに比較できる。リアル店舗が酒を棚に並べ、商品説明を付けるだけでは、わざわざ店へ出向く理由をつくりにくくなった。銘酒小路は、酒器を選び、日本酒を味わい、料理との相性を確かめる体験まで売り場に取り込んだ。
角打ちの使い方はさらに広がる。
東京・上野恩賜公園、竹の台広場で開催される「酒屋角打ちフェス」は、2026年11月で13回目を迎える。主催者によると毎回1万5000人以上が訪れ、数百種類の日本酒や焼酎などを杯売りする。酒だけではなく食や音楽も楽しめるイベントに発展した。
「若者の酒離れ」との矛盾
酒類メーカーも消費者との接点に角打ちを使う。菊正宗酒造は2026年10月、発売60周年を迎えた「樽酒」のフェアをKITTE大阪で始めた。参加する飲食店が料理と樽酒を組み合わせ、「角打ち 小野の離れ」では月曜から木曜の午後2~5時に「菊正宗60周年専用センベロセット」を1000円で提供する。
フェアでは樽酒をそのまま味わうだけでなく、ソーダ割りなども提案し、料理との組み合わせを広げる。同じ酒でも飲み方や料理を変えれば、味わい方も変わる。
酒を商品として売るだけでなく、飲み方まで提案する。酒販店、百貨店、商業施設、メーカーが角打ちに目を向ける背景には、そんな売り方の変化がある。
日本酒市場は長期にわたって縮小している。清酒の課税数量は1973年度の約177万キロリットルをピークに減少し、2023年度には約39万キロリットルまで縮小した。ピーク時から8割近く減った計算になる。
若者の「酒離れ」も長く指摘されてきた。それにもかかわらず、酒をその場で飲ませる角打ちを酒販店や百貨店が取り入れる。一見すると矛盾しているようにも映る。
しかし、酒を飲む人が減った、あるいは飲酒量が減ったという話と、酒を楽しむ機会そのものがなくなったという話は同じではない。

