感動ジャケットの「2つの落とし穴」
以上のように、ビジネスカジュアルにまたがるからこそ、「感動ジャケット」は商談の場面に耐えうるわけですが、実は多くの人が無自覚に陥る「2つの落とし穴」に気をつける必要があります。
①「冬もOK」という季節感の勘違い
感動ジャケット自体は薄手ですが、「ワイシャツとセーターを挟んで、通勤ではコートを羽織れば冬もいける」と考えている人は少なくありません。しかし、服のプロから見れば、これは明確なNGです。ビジネスの場において「自分が寒くないか」と「相手から見て違和感がないか」は全く別の問題だからです。
では、感動ジャケットは何月までなら商談で着用できるのでしょうか。衣替えのタイミングは「合わせる素材」で決まります。
色合いで組成配合率が変わる感動ジャケットですが、いずれもポリエステルと複合繊維で構成されているため、いわゆる「季節感がない」素材です。
そのため人によっては、真冬に着ていても「おかしくない」と勘違いしかねません。でも実際のところ、ウール素材のセーターと合わせれば、ポリエステルの人工的な質感が悪目立ちするもの。
理由は、光の返り方です。
ウールの繊維には、クリンプと呼ばれる「細かな縮れ」があります。この凹凸が光を乱反射させるため、生地に奥行きのある表情が生まれる。いわばウールの上質さは、繊維1本のかたちからつくられているということです。
そして、じつはポリエステルにも、クリンプを人工的につくる技術があります。
収縮率の異なる2種類の樹脂を貼り合わせて1本の繊維にすると、熱を加えたときに片側だけが強く縮み、繊維がらせん状に縮れます。これが「複合繊維」と呼ばれるもの。感動ジャケットのタグに記載されている「複合繊維(ポリエステル)」が、まさにこれにあたります。
ウールの縮れを模倣することで、「ポリエステルの安っぽさがある」という指摘は、すでに過去のものです。単体で見れば、ウールと見紛うほどに進化しています。
ウールとポリエステルの決定的な違い
では、それでもなお埋まらない差は、どこにあるのか。それは繊維の「表面」です。
ウールの繊維表面には、スケールと呼ばれるうろこ状の層が、瓦のように重なっています。この微細な段差が光を細かく散らすため、ウール特有の落ち着いた奥行きが生まれます。一方ポリエステルは、溶かした樹脂を細い穴から押し出してつくる繊維です。表面はどこまでも滑らかで、この構造だけは再現のしようがありません。
さらにウールは天然繊維ですから、1本ずつ太さにばらつきがあります。この不均一さもまた、表情の豊かさにつながっている。逆に言えば「整いすぎていること」こそが、人工的に見える理由なのです。
つまり縮れも光沢も似せられるけれど、表面までは似せられない。だからこそ単体で着ているぶんには誰も気づきませんが、本物のウールと並んだ瞬間、平坦さのほうが際立ってしまうのです。
だからこそ感動ジャケットの場合、「何月まで」という区切りではなく、「どんな素材の服で、合わせるか」という組み合わせによって、衣替えのタイミングが決まります。
たとえばウールのカーディガンやセーターを、ワイシャツとジャケットの間に挟む着こなしは避けてください。つまりは、ワイシャツ一枚とジャケットでは、ちょっと肌寒く見える時期が、感動ジャケットをクローゼットにしまうタイミングです。


