売り上げ半減、「思い出すだけでも怖い」

2020年4月、コロナ禍の緊急事態宣言により、百貨店や主要駅の店舗が休業。売り上げは半減して赤字が膨らみ、経営状況が一気に悪化してしまう。

当時の心境を聞くと、興津さんの表情が引き締まる。

「いま、思い出すだけでも、怖いな」

隣の中原さんのほうを見ながら、深く頷いた。

「ここ(応接室)に二人で座って、呆然としました。会社に来てもやることがないんです。工場もすべて止まってしまって……」

中原さんは興津さんが少年サッカーのコーチをしていた頃の教え子で、興津さんから声をかけて2017年に入社している。以来、信頼のおける右腕として勤めてきた中原さんも、「店舗が全部閉まって、先も見えなくて、本当に苦しかったです」と、重い口調で話す。

「とん蝶」に思い入れもある。長く応援してくださるお客さまもいる。祖父が作った会社をなんとか残したい――。

ここが踏ん張り時だと、覚悟を決める。

「公庫(コロナ禍の特別融資)からお金を借りようとしたら、会長(叔母・岡本具子さん)が猛反対。それまで無借金経営でしたし、祖父から、『借金するくらいならもう辞めなさい』と言われていたらしく。でも、僕が責任を取るから、続けさせてほしいと説得したんです」

左:総務部長の中原弘尚さん。右:5代目の興津真生さん。中原さんは少年サッカーチームの元教え子
筆者撮影
左:総務部長の中原弘尚さん。右:5代目の興津真生さん。中原さんは少年サッカーチームの元教え子

7割を占めていた「とん蝶」を主力に

会社を存続させるため、まずは取り扱い商品を見直した。売り上げの7割を占めていた「とん蝶」を主力に据え、創業時からの焼き菓子は残すことに。一方で、大福、あんみつ等の生和菓子は製造を中止した。

「ほんまに余裕がなかったので、最初は焼き菓子もやめようと思ったんです。種類が多いと材料も容器も仕入れなあかんし……。でも、長年勤めている工場長が『やりますよ』と言ってくれて、続けることにしました」

2020年8月、森小路店、アベノ店、ミナミ店の3つの直営店を閉店した。「販売員の方々には、本当に申し訳なかったです」と、心苦しそうに身体をすぼめる。

さらに、ホームページをリニューアルし、宣伝を兼ねて公式InstagramとXのアカウントを開設。運用は若手社員に任せた。「昭和やから、こういうのは疎いんです」と苦笑する興津さん。

人気を押し上げたのは、関西のグルメ情報番組「水野真紀の魔法のレストラン」だった。2023年6月、デパ地下のロングセラー特集に登場すると、「阪神梅田本店」からの注文が一気に増えたのだ。「それまでは、1日200〜300個だったんです。ところが、放送後の週末には何千個もの注文が来てびっくり。テレビの影響ってすごいなと。阪神さんからはいまでも、平日800個、土日は1000個を超える注文が来ます」