行政は「儲け」だけを考えてはいけない

住民からの相談や苦情への対応、施設の監視などには行政コストも発生します。政策によって生まれる利益と、その副作用による負担を受ける主体が一致していないことがあり得る訳です。

この「非対称性」の存在は、行政においては特に慎重な制度設計が求められます。

民間事業者であれば、自らの事業にどれだけの需要があるかを考えることが中心になります。しかし行政には、それだけではなく、その事業が地域全体にどのような影響を及ぼすのかを見る役割があります。

・誰が利益を得るのか
・誰が負担するのか
・問題が発生した場合、誰が対応するのか
・そのコストを誰が負担するのか

こうした点を政策の初期段階から検討することが、行政におけるリスク管理の基本だと考えます。


住宅宿泊事業法では、住宅宿泊事業は許可制ではなく届出制という制度設計になっています。自治体は地域の実情に応じて、条例で営業期間を制限することも認められています。つまり、国が制度の基本的な枠組みをつくり、自治体が地域の実情に応じて規制するという構造だと考えられます。

なぜ事前に被害を予測できなかったのか

だからこそ問われるのは、国と自治体の双方が、民泊の急速な拡大によって生じる地域住民への影響をどこまで事前に想定できていたのか、ということです。

リスクマネジメントのコンセプト写真
写真=iStock.com/Irin Somsuppamongkol
※写真はイメージです

では、なぜリスクが十分に織り込まれなかったのでしょう。その背景の一つとして考えられるのが、成長を優先する局面で起こりやすい「楽観性バイアス」です。将来について自分たちにとって都合のよい結果を想定し、好ましくない出来事が起こる可能性を実際より低く見積もる心理傾向です。

強い成長期待が存在する時、経済効果や市場拡大、外国人旅行者数、といった「プラスの数字」に目が向きやすく、その裏側で発生する騒音など「マイナスの数字」が後回しになる、あるいは気付いても口にしづらい同調圧力がある可能性もあります。

もっとも、条例改正には住民説明や議会審議といった手続きが必要で、生活環境への影響は経済効果のように数値化しにくいという制度的な事情もありますが、それだけでは、規制の初期段階から住民への影響を十分に織り込めなかった理由を説明しきれません。しかし、見えにくいからといって、存在しないわけではありません。