カヌー体験と辺野古ボートの違い

旅行代理店が介在する意味は、単に予約や移動を手配することではない。報告書によれば、C社が通常おこなう事前の安全点検には、催行基準の明確化や、病院・警察署等の確認が含まれていた。海上運送であれば、一般不定期航路事業としての登録、船長に必要な資格、船客傷害保険、安全管理規程など、法令上の要件も確認すべき対象となる。

同じ研修旅行中の別コースにあった「慶佐次川カヌー体験」は、この違いをよく示している。こちらは旅行代理店を介したプログラムで、救命胴衣の着用や安全事項の説明があり、警報、増水、落雷、強風、高波などに応じた中止基準が設けられ、実施できない場合の代替プログラムもあらかじめ決められていた。水上活動である以上、危険があることを前提に安全を確保する仕組みが用意されていたのだ。

一方、辺野古ボートコースでは、天候悪化時の中止基準も、代替プログラムも明確ではなかった。水難事故を想定した危機管理マニュアルも整備されていなかった。2023年度以降は、過去に事故が起きていないことから安全だという思い込みのもと、必要な安全性の検証がなされないまま継続されていたと、報告書は指摘する。

人を信頼することと、安全確認を怠ることは別である。ところが、長年続いてきた学校独自の活動という枠組みのなかでは、その区別が曖昧になった。ハイリスクな海上活動が加わったにもかかわらず、従来の関係性のまま前年度踏襲が続いた。私は、ここに事故の構造的な起点があったと考える。

マングローブ林をカヌーで進む
写真=iStock.com/t_kimura
※写真はイメージです

教員は「旅行」の専門家ではない

これから修学旅行シーズンを迎える。各学校にはまず旅程表を見直し、旅行代理店の関与から外れている活動がないかを確認してほしい。仮に学校が直接調整する活動がある場合も、その存在と内容を旅行代理店に共有し、原則として旅程全体を安全確認の対象にすべきである。とりわけ海、川、山での活動や、船などの乗り物を使う活動については、学校だけで手配を完結させてはならない。

研修旅行等の事故防止にあたって、細かなリスク管理や点検を教員にゆだねる方向性は、非常に危うい。教員は教育の専門家であって、旅行先の交通事情、自然条件、事業者の資格や保険、催行基準、緊急搬送体制までを専門的に評価する旅行の専門家ではない。教員に新たな責任を積み増すだけでは、長時間労働のなかで確認が形式化することにもなりかねない。

学校には学校の専門性がある。子どもの特性や、子どもがどのような行動を取り得るかをよく知り、教育活動として何を実現したいのかを旅行代理店に伝える。一方、旅行代理店は、学校の希望を踏まえて実施可能な複数の選択肢を示し、事業者、交通、気象条件、中止基準、代替案、緊急時対応まで含めて安全性を点検する。そのうえで学校が教育目的に合うものを選ぶ。この役割分担が必要である。

ただし、旅行代理店が関与すれば事故が起きないわけではない。学校が安全管理の責任を手放してよいわけでもない。大切なのは、学校だけで安全を抱え込まないことだ。校外でおこなう教育活動だからこそ、学校外の専門性を取り入れ、学校と旅行代理店が一緒にリスクを検証する。辺野古沖の事故を一校だけの特殊な失敗として終わらせず、全国の校外学習の仕組みを見直す契機にしなければならない。

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