五輪選手の裏には膨大の数の敗者がいる
筆者はMcQueenと同じ立場であるが、一方でTMPSにコミットせずにはトップにたどり着けない競技があることも事実である。
東京2020の卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼氏は、卓球は若くして強くなければ世界への道のりは厳しく、現在の日本代表が卓球を始める年齢は3歳くらいからであり、遅くとも5歳である点を指摘している(スポーツ日本新聞社、2025)。
水谷氏をはじめ、早期教育によってスポーツで輝かしい成績を収めたアスリート達は、TMPSをおそらく否定しないであろうし、親や指導者を恨んだり、自身の人生を悔いていることもないと思う。ただ、その背後には膨大な敗者が存在し、上述したリスクを子供が抱えるようになる点をTMPSに励む親は認識すべきであろう。
習い事への異常なこだわりは暴力につながる
TMPSに情熱を注ぎすぎた親はどこへ向かうのか――その一つが、暴力だ。
2023年の全米スポーツ審判員協会(National Association of Sports Officials)の調査では、「スポーツマンシップに最も反する行為をするのは誰か?」という質問に対して、「親」と回答した審判員の割合が39.89%と最も高く、次いで24.70%が「コーチ」であった。本調査は、審判員の回答者数が3万5813人という大規模調査であり、ユーススポーツ、高校・大学のスポーツ、プロスポーツといった、さまざまなレベルでの審判員が回答している。
親がスポーツマンシップに最も反する行為をするという回答結果は、アメリカで起きた、親による審判員への暴行事件とも符合する。
日本では考えられないような事件が続出しており、審判員に対して親が深刻なリスクになっている。このような日常の倫理から逸脱した行為は、子供のパフォーマンスや試合結果に対する過剰な執着や欲求に起因している。子供のためではなく、親自身の怒りや不満を解消しようとする行為であり、結果として、子供の成長に悪影響を及ぼすことになる。


