「人魚を食べれば永遠の命が…」
「ちいかわ」において、食事は生きる喜びの中心にある。幸福はたいてい、小さな食卓の周辺にある。だが同時に、食べることは怪異への入口でもある。正体のわからないものを口にし、食べることで身体や運命が変わる。食べる者と食べられる者の立場が、突然逆転する。
「人魚を食べれば永遠の命が得られる」という言い伝えも、日本各地の人魚伝承を想起させる。代表的なのが、人魚の肉で年を取らなくなった女性をめぐる八百比丘尼の伝説だ。若狭小浜に伝わる代表的な型では、娘はそれが人魚の肉とは知らずに口にする。そこでの不老不死は幸福ではない。自分だけが人間の時間から外れ、周囲に先立たれ、ひとり残される。
『映画ちいかわ』は、この構造を変奏する。本作で人魚の煮付けを食べさせる動機は、大切な相手を救いたいという願いだ。知らずに得た者の代償が孤独なら、奪って得た者の罰は追跡になる。不死とは祝福ではなく、選択から永久に逃れられなくなることだ。なぜ人魚の肉が不死をもたらすのか、その原理は語られない。しかし因果だけは確実に残る。
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