ゲーム新時代には「臨機応変」が命

カプコン社長 辻本春弘氏

いまゲーム業界は大きな地殻変動を迎えています。現在の市場を席巻しているのは無料でゲームを遊んでもらい、気に入ったらアイテムを買ってもらう“フリーミアム”と呼ばれるビジネスモデル。携帯電話を使って遊ぶゲームなどがこれに当たります。新しい波が業界に大きな影響をもたらしています。

もっとも大きい変化はユーザーとのつながり方です。従来はゲームソフトを完成させてパッケージとして問屋や小売店に納品していました。つまり我々のビジネスモデルはBt oBのビジネスであって、ユーザーとは直接つながっていなかったのです。

ゲームそのものの評価は売れ行きを見ればわかる。ただ、ユーザーと直接つながっていないと、どこが評価されているのか、あるいはどこが不満なのかは見えづらい。そのためゲームの続編を作るときにも、また一からマーケティングする必要がありました。釣りにたとえれば、キャッチ&リリース。ヒットという大きな魚を釣ることができたとしても、逃がしてまた釣り直さなくてはいけなかった。

一方、新しいビジネスモデルであるフリーミアムは基本的にBtoCでユーザーと直接つながっています。だから1度完成したものをリリースしたあと、ユーザーの反応を見ながらアップデートしたり、新しいキャラクターを追加することもできる。

このように新しい仕掛けを次々に打ち出せれば、続編が出るまでのあいだ、ユーザーに継続して遊んでもらいやすい。企業としては、安定的な成長が見込めるありがたいビジネスモデルです。

ただフリーミアムで成功するためには臨機応変な対応が必要です。たとえば開発の現場では、「どれくらいの人がどのようなアイテムを購入しているのか」といったデータを毎日解析して、即座に開発に生かさなくてはいけません。その対応が遅れるとユーザーは離れていくので、求められているスピード感が従来とまったく異なります。

幸いゲーム業界は機動性の高い業界。メーカーなどであれば、通常、巨額の初期投資をして工場を建て、5年、10年とかけて、その回収を行います。しかしゲーム開発における投資対象は人です。ですから、もし途中で「売れなそうだからやめて別のものを試そう」と決断しても、それまでの人件費が無駄になるだけで済む。その点でゲーム会社は小回りが利きやすいのです。