意図的もしくは、意識的に作られた虚偽と真実が入り乱れる現代――。急激に発達したSNSとAIの発展により、私たちは情報過多の中で取捨選択をしながら生きている。
真か偽りかわからない情報がネットによって瞬く間に拡散されている時代に一石を投じた作品が誕生した。それは、2026年2月27日(金)から公開されている映画『#拡散』だ。今回プレジデントオンラインでは作品のロケ地、上市町で白金(バイ・ジン)監督と脚本家・港岳彦さんに作品が誕生したきっかけから撮影秘話を伺った。(取材・文=安田ナナ)
白金監督と脚本家・港岳彦さん
撮影=北日本新聞社

ネット上の情報に翻弄される平凡な男

作品の舞台は、富山県にある小さな町。

成田凌さんが演じる介護士の浅岡信治は妻をワクチン接種直後に亡くしてしまうところから物語がはじまる。「なぜ、彼女は死んだのか?」という疑問を胸に抗議活動に明け暮れる信治。沢尻エリカさんが演じる新聞記者の福島美波の目に留まったことがきっかけとなり、信治はあっという間に反ワクチンの象徴として多くの人の目にさらされていく。信治の意思とは裏腹にあらゆる情報が拡散され、やがて狂気に満ちた別人へと変わっていく――。

作品の原案・編集・監督を手掛けたのは、映画『ゴールド・ボーイ』(2024年)で映画制作に進出した白金(バイ・ジン)監督。脚本と同名小説(プレジデント社)の執筆を任されたのは脚本家の港岳彦さんだ。

私たちも経験したコロナ禍の記憶が両名の手によって蘇る、映画『#拡散』。

虚実あふれる現代社会にまざまざと問いを投げかけてくれる作品だ。

作品のモチーフは立山連峰。作品には山々の「目線」が必要だった

――映画『#拡散』が2月27日から公開されました。作品はオリジナル企画とのことですが作品はどのような経緯で誕生したのでしょうか。

【白金監督(以下、白)】21世紀の上半期で一番大きな人類の出来事は何かと考えた時、まさかこのコロナウイルスだとは思いませんでした。「緊急事態宣言」が世界中で叫ばれ、私たちは異常な生活を強いられました。「リモート」が日常となり、我々の生活スタイルが激変。テレビを付ければ逼迫した医療現場の現実を突きつけられ、「死」が誰にとっても身近な存在になっていましたね。そこから「ワクチン」の是非が問われる世の中になっていったわけですが、この状況を作品として残したいと思い、港さんに連絡を取りました。その時点ではストーリーが未熟だったからか、港さんは乗り気ではなかったように思います(笑)。

【港岳彦さん(以下、港)】コロナの経験は僕自身も「世界が一つになった」と感じた出来事でした。白監督から連絡があり、監督おすすめの満州料理屋さんに一緒に行きました。そこで次回作の提案を聞いたわけですが、その段階では「ワクチン」がお題でした。これはセンシティブな内容になりそうだなと感じ、鍋をつつきながらどうやって逃げようかと考えていました(笑)。しかし、白監督と会話を重ねていくうちに「人は信じたいことしか信じられないのでは」ということにいきつき、個人的にも興味があるテーマだったので「ではやりましょう」ということになりました。

白金監督と脚本家・港岳彦さん
撮影=北日本新聞社

――最初は白監督と港さんの間では少し温度差があったものの、そこから一気に作品作りを加速させていったわけですね。作品のロケ地を富山県の上市町にしたことは何か理由があったのですか?

【白】ロケ地に上市町を選んだのはカメラマンの宗賢次郎さんの提案です。プロットも何もできていない状態のときに港さんと宗さんとリモートで話し合い、そこで上市町の名前が出ました。

【港】僕はもともと上市町の存在を知っていました。学生時代にゼミの実習作品で上市町に1週間ほど滞在していたからです。その時に毎朝、荘厳な立山連峰をひたすら撮影していました。だから宗さんがなぜ上市町の名前を出したかすぐにわかりました。

もちろん撮影は東京でもできます。しかし、人間の愚かさを描き出す作品において神とも呼ばれる山々の目線があるのとないのとでは完成に違いが出るように感じました。冬の立山連峰が望む町で人間の悲喜が展開されるという視点は、カメラマンらしいビジョンだなと感じました。