「ビジネスパーソンの職場」に

「ピーススタジアム」は7時から23時まで一部客席が解放されており、巨大なフリースペースと化した客席で「じげもん」(長崎弁で「地元の人々」)の方々が、まったりと時間を過ごしている。

敷地内にある地上12階のビル「スタジアムシティ・ノース」の大半はオフィス棟として機能しており、試合日にはサポーターでぎっしり埋まる通路を通って、おびただしい数のサラリーマンが出勤してくる。

その後、試合日は「S席」だった座席にノートPCを持ち出して仕事をしていたり、数人で屋外に出て会議をしていたり……客席は「オフィスのフリースペース」と化す。オフィス棟は「スタジアムシティで仕事をする」上でのノマドワーカー(固定されたデスクを持たない人々)が多く、職場環境の満足感にも繋がっているのだ。

もうひとつ、これは、ファンを作る仕掛けでもある。「天然芝の匂いに包まれたグラウンドという非日常空間」を毎日のように眺め、選手の映像やパネルを目にしていれば、この場所で時間を潰す来訪者を「一度はサッカーの試合に行きたい!」という気にさせてしまうのだ。

実際にチケットを購入して行けば、いつもの座席に座っている人々がチャント(応援歌)を歌い、グラウンドでは縦横無尽に走る山口蛍選手の守備、柔らかいボールタッチでシュートをうつマテウス・ジェズス選手の人間離れしたプレイに息を呑み……気が付けば、V・ファーレン長崎の試合に足しげく通うようになる。そんなファン醸成のストーリーも、「スタジアム効果」というべきだろう。

試合日の様子。2024年10月27日 V・ファーレン長崎vs鹿児島ユナイテッド戦
筆者撮影
試合日の様子。2024年10月27日 V・ファーレン長崎vs鹿児島ユナイテッド戦

「待たない・混まない」フードコート

お昼時になると、ランチを求める人で賑わいはじめた。ただ、フードコートの維持にあたって悩みは尽きない。魅力的な店がなければ客足はすぐ引くうえに、座席が少ないと利用客はトレイを持ったまま歩き回ることになり、集客施設としての満足度は急落する。

スタジアムシティは、20店以上のテナント誘致に成功した。ラインナップを見ると、地元・ちゃんぽんの名店「老李」など長崎のご当地グルメから、長崎になかった「博多一幸舎」「宮武讃岐うどん」まで揃う。

試合日には有料エリアにも無料で入れるため、スタジアムのグルメである長崎名物・角煮まんじゅう(岩崎本舗)や「マリオンクレープ」などを買い求めることもできる。

食事はほとんどがネット予約可能で、待たされることなく受け取れる。そして、客席は「フードコートの座席」の一部と化し、ここでのんびり昼食をとる人々も多い。

「待たない・混まない」は、忙しい現代の人々にとって魅力の1つとなっている。

フードコート内「老李」のちゃんぽん
筆者撮影
フードコート内「老李」のちゃんぽん
スタジアム内の岩崎本舗「角煮まん」。試合がない日も購入でき、客席で食べられる
筆者撮影
スタジアム内の岩崎本舗「角煮まん」。試合がない日も購入でき、客席で食べられる