女性正社員の増加を喜べないワケ

こうして見ると、確かに女性の正規雇用は増えています。しかし、だからといって「女性の働き方が全体として改善した」と結論付けることはできません。ここで大事なのは、「どの産業で正社員が増えているのか」という点です。

実は、全産業の中でも最も正規雇用が増加しているのは、医療・福祉といった、いわゆるケア関連産業です。

総務省の「労働力調査」のデータでは、2013年1月と2025年9月を比較すると、医療・福祉の産業で93万人も正規雇用が増えています。さらにその内訳を詳しく見ると、医療・福祉の中でも最も女性正規雇用者数が伸びていたのは、社会保険・社会福祉・介護事業であり、同期間で48万人ほど正規雇用が増加していました。

つまり、女性の正規雇用が増えていると言っても、その増加分の多くは「ケア労働」に集中しているわけです。

ところが、このケア関連産業には大きな課題があります。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」を見ると、社会保険・社会福祉・介護事業で働く女性の月収(所定内給与額)の平均値は全産業平均よりも約7万~8万円低い状況が続いています。

つまり、正規雇用が増えても、「低賃金の正規雇用」が増えているという側面があるのです。ケア労働は女性比率が7~8割に達する「女性に偏った産業」であり、ここの賃金が低いままである限り、男女間に賃金格差が縮まりにくい構造が残り続けます。

ケア産業への処遇改善が重要

ここまで見てきた正規雇用の増加は、確かにポジティブな面もあります。しかし、その内訳を丁寧に見ると、①比較的賃金の低いケア産業への集中や②産業構造としてのジェンダー偏在という問題が横たわっています。

このため、これから必要なのは「正規雇用を増やすこと」に加えて、①ケア産業への処遇改善や②男女で偏りの大きい産業の構造改革といった「質の改善」でしょう。

女性の正規雇用が増えたのは、社会が変わり始めたサインです。しかし、その中身を詳しく見ると、質の面で課題が残っています。この点を改善することで初めて、「女性の地位が本質的に高まった」と言えるようになるでしょう。

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