指を噛み切る、口に手を突っこむ

④戦って生還する

次の記事は、ヒグマの指を噛み切って助かったという珍しい事例である。

中頓別の自転車販売業、和田元五郎が勝井沢にヤマベ釣りに出かけたところ、突然仔熊を連れた猛熊が和田に飛び付き大格闘となり、熊が和田の顔面を剥ぎ取ろうとする際、親指が和田の口中に入ったので、死力をもって親指を咬み切った勢いに辟易し、藪中に逃げ失せた。和田の傷は十四ヶ所に及んだが、生命に別条ない(『北海タイムス』大正9年7月22日)

指を噛み切らないまでも、口に手を突っこんで助かったケースも散見した。

ある年、中宇津々部落では多くの緬羊が熊の被害にあい、ハンターがアマッポー(仕掛け銃)をかけたところ、クマが手負いのまま逃げた。傷を負った熊は、ところどころで休んだらしく血痕の跡が草や土にベッタリ付着している。ハンターの一人が「近いぞ」とささやいて間もなく、待ち伏せしていた熊がハンターめがけて飛びかかり、体をかわす暇もなく熊に押さえつけられてしまった。熊が大きな口を開け、ハンターの頭に噛みつこうとした時、身を捨てる思いで握りこぶしを作った腕を熊の口の中におもいっ切り入れた。腕を噛まれたが、噛み切るところまではいかず、熊の方が息苦しくなってハンターを離して逃げた(後略)(熊狩り逸話[昭和31年6月15日、16日]『紋別市宇津々部落開基九十周年記念事業宇津々郷土史』昭和61年)


布部部落の渡辺代次郎は、富良野沿線で知られた狩猟家で、十数頭のヒグマを撃ち取っているという。渡辺が九死に一生を得たのは、昭和三十八年九月末のことであった。(中略)突然、大木の根元に潜んでいた熊が飛びかかってきた。不意を突かれて組み伏せられた渡辺は、咄嗟に右手を熊の口中深く差し込んだ。その状態で左手だけでライフル銃を操作して、熊の喉元に銃口をあてがい、不発でないことを念じながら引き金を引いた。弾は見事に咽喉を貫通して、熊がひっくり返った。(後略)(大西松次)『富良野こぼれ話』(富良野市郷土研究会 昭和54年)

熊が描かれた「動物注意」の標識
写真=iStock.com/TokioMarineLife
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