「技術があれば成長する」時代は終わった

3. 理論を現実が証明した――米国・韓国・デンマークの事例

アギヨン=ホーウィット理論の価値は、抽象理論ではなく実証と制度設計に耐えうる「設計理論」であることにある。それを示すのが、三つの国の事例だ。

(1)米国:創造的破壊が経済を再生させる

アギヨンらの実証研究によれば、米国では特許件数の増加とともに、新規企業設立率と旧企業退出率の双方が上昇した。特許=知識の累積が、創造(entry)と破壊(exit)を同時に活性化させ、生産性成長(TFP)を押し上げたのである。ここで見えてくるのは、創造と破壊が対立するのではなく、共進化する関係だという真実だ。

 

(2)韓国:危機が制度を破壊し、新たな成長を生んだ

1997年のアジア通貨危機は、韓国経済にとって「制度的破壊」だった。IMFの支援条件として財閥構造の独占が是正され、結果的に新しい企業の参入が急増。これにより革新頻度λが高まり、生産性成長率が再びプラスに転じた。制度の破壊が、経済の創造を導いた典型例である。

 

(3)デンマーク:破壊の痛みを吸収する制度設計

アギヨンが最も高く評価するのは、デンマークの雇用と社会保障のハイブリッド制度である「フレキシキュリティ〈Flexicurity=flexibility(柔軟性)+security(安全)〉」制度だ。解雇ルールの明確化(柔軟性)+所得補償(安全網)+再教育(再挑戦)という三位一体構造により、破壊を止めずに社会を安定化させることに成功している。アギヨンはこの仕組みを、まさに自らの理論の「社会実装版」と呼ぶ。

4. 国家は「投資家兼保険者」として創造的破壊を支える

アギヨン理論の最も現代的な意義は、国家の役割の再定義にある。彼は「国家は“投資家(Investor)兼保険者(Insurer)”でなければならない」と明言する。つまり、国家は創造を促すためにリスクを取り(投資家として)、破壊の痛みを社会保障で吸収する(保険者として)必要がある。