しかし、法律上「旅客運送」に分類されるタクシー業務は、利益を出すために継続して行われている「営業的商行為」であり、旅客運送をめぐる法律トラブルにおいては、商法が、運転手と乗客の双方に適用される。加茂弁護士の説明によると、本ケースでは、商法590条一項を適用することにより、タクシー運転手が遠回りして目的地に到着したことにつき、「注意義務違反(過失)」があったことを乗客が証明しなくても、乗客は損害賠償を請求できるという。

つまり、タクシー会社側が損害賠償を免れたければ、運転手に過失がなかったことを立証しなければならない。「遠回りした事実はなかった」「遠回りすることの確認を事前にとった」「遠回りはしたが、渋滞や事故を避けるなどの合理的な目的があった」など、運転手に注意義務違反がなかったことを証明できなければ、乗客の損害賠償請求が通る。これを「立証責任の転換」という。

この注意義務違反の有無をめぐる問題が、実際上、争点になるので、その立証責任を相手方に押しつけてしまえる乗客側のメリットは大きい。

タクシー会社は、国土交通省から許可を受け、旅客運送業務により利益をあげる目的で業務を行っている以上、大きな責任も負うべきだというのが、民法における基本的な発想である。この考え方を「報償責任の法理」という。

ただし、タクシー運転手が遠回りのルートを選んだ結果、大きな商談の場に遅れてしまい、先方を怒らせ、商談がパーになってしまったとしても、その損失相当額をタクシー会社に請求することはできない。

運賃に疑問があれば、まずは運転手と交渉し、車内に表示されたタクシー会社の連絡先に電話を入れる。そして、妥当と思う額を支払い、自分の連絡先を渡して降車すべきだと加茂弁護士は助言する。乗り逃げと誤解されないよう、落ち着いて振る舞いたい。

(ライヴ・アート= 図版作成)