「自分探しの旅」ってなんだよ

【内田】もうひとつの問題は「本当の自分探し」というイデオロギーですね。これは1997年の中教審答申から学校教育に導入された割と新しいアイディアなんです。その時に「自分探しの旅を支援する」のが教育の責務だという新しい言葉づかいが登場した。僕はその時点で強い違和感を覚えました。「自分探しの旅」ってなんだよって。「本当の自分」を早く見つけて、そこに「居着け」と教育するなんて、子どもにあまりに気の毒じゃないですか。前に高部さんが「ドリーム・ハラスメント」という言葉で適切に前景化してくれたように、それは子どもたちに「早く自分の入る蛸壷を決めて、そこから出てくるな」と強制するきわめて抑圧的なイデオロギーだと思います。

僕自身の小学校・中学校の時代を振り返ると、「本当の自分」なんて人に知られたくなかった。親にも家族にも先生にも友人にも知られたくないのが「本当の自分」だった。だって、思春期の「自分」なんてもうどろどろぐじゃぐじゃじゃないですか。