D4DR社長/コンサルタント 藤元健太郎(ふじもと・けんたろう)●1967年東京都生まれ。1991年電気通信大学電気通信学部卒。野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。日本初のCGMサイト関心空間社取締役、経済産業省産業構造審議会情報経済分科会委員、青山学院大学ExectiveMBA非常勤講師などを歴任。

デモグラフィックマーケティングの終焉

これまでマーケティングの世界ではデモグラフィック(性別、年齢、職業など)によるセグメント化やターゲティングが当たり前に行われてきた。かつては自動車などのようにライフステージごとに商品が設定されていることも多く、顧客のデモグラフィックを知ることがとても重要であった。

しかし、日本も成熟社会になって生活者のライフスタイルは多様化してきており、同じ性別で同じ年齢で同じ職業であったとしても価値観やニーズもバラバラである現在においては、その重要性はかつてよりは低下してきている。そこで顧客の多様な価値観を知るために詳細なアンケートやインタビューなどを行うことで、顧客の多様な定性的なニーズをさぐるサイコグラフィック的アプローチが盛んになり、日本でも調査会社の需要が増えていった。

そうしたアプローチのひとつとして流行したのが「ペルソナマーケティング」である。顧客のライフスタイルを徹底的に掘り下げ、どんな部屋に住んでいて、何を食べて、どんな仕事をしているかまでも想定し、その人にふさわしい商品を企画したり、商品の調達に活かしたりする手法である。例えばECサイトのアンジェでは「フランスに憧れる女性」のペルソナを詳細に作り込み、その女性の部屋においてありそうかどうかで全ての商品の品揃えを決めているなどブランドの世界観を作ることに活かしている。

→アンジェ
http://www.angers-web.com/

しかし、このアプローチはブランドを明確化することには貢献できるが一方で顧客を絞り込むアプローチでもあるので、ターゲットを狭めてしまうというリスクがある。

一方でWebを活用することで急速に普及しつつあるのが「行動データ」(ビヘイビアとも言う)をベースとしたアプローチである。何よりも有名なのはアマゾンである。アマゾンのサイトでは顧客のアクセスや購買動向を元に顧客へのリコメンデーションを徹底的に行うことで、一人一人個別の顧客のついで買いのクロスセルなどを大きく増やすことに成功し、業績を大きく成長させてきた。思わず購入してしまった経験を持つ人も多いだろう。

実はこうしたアプローチは日本ではWeb以前から普及しつつあった。それはコンビニエンスストアの拡大である。コンビニのPOSデータはデモグラフィックをとれない(セブンイレブンではアルバイト店員に推測させて入力していることは有名だが)代わりに、商品がいつどこで売れたのかをすべてデータ化した。その結果商品の販売動向が明確になり、気温や地域特性などでの購買変化なども全てリアルタイムで把握することができるようになった。飲料などの商品開発にはコンビニの顧客の行動データは不可欠なものになっている。調査会社もPOSデータを使う分析サービスなどを提供するようになった。

→インテージ社の小売店POSデータ分析サービス
http://www.intage.co.jp/subjectsearch/sfa/pos

Webのデータの凄いところはこうしたコンビニのPOSデータのような結果データではなく、購買に対するプロセスデータが取得できるところである。どんなキーワードで検索し、来訪した人が商品を何回見た人が該当する商品を購入しやすいのかというデータはアクセスログにはすべて残る。そしてそれは結果がすべてであり、例えばブラジャーのコンテンツにアクセスした結果、購入した人が多ければ、ブラジャーのコンテンツを見に来る人には積極的なプロモーションを行うべきという結論になる。それが老婆だろうが、男性だろうがデモグラフィックは関係無い(実際、男性用ブラジャーのニーズがあることがデータから判明し、開発した企業もある)。大事なのは「より確率の高い、行動を発見すること」であり、すでに広告の効果測定でも「アトリビューション分析」という形で一連の行動全体を分析した広告効果のはかり方が注目されている。

例えば日本のマクドナルドは日本でもっとも普及した携帯のクーポンシステムを有しており(逆にスマホ対応はこれからしなくてはいけないが)顧客がどの店舗でどんなクーポンでどんな商品を購入したかいう行動履歴からクーポンの配信を個人個人に変えるということをすでに行っている。筆者の会社でも通販会社の携帯からの購買パターンを分析すると、メールを受信して読むタイミングと購買するタイミングには様々なパターンがあることが判明しており、今後はメールを出すタイミングやコンテンツを最適化していくアプローチが普通になっていくだろう。週末しか購入しない人に平日アプローチしても効果は低いかも知れないし、直前が効果的な人と、当日朝の通勤電車が一番夜の購買に効果的な人ではタイミングをわけてメール配信などを行うべきである。

こうした行動データのアプローチはスマートフォンの普及でさらに次のステージに向かおうとしている。これまでのPCベースの行動データだけでなく、持ち歩いていることからそれは顧客のいる場所や今目の前で見ている商品が何かまでもデータで把握することが可能になりつつあるからである。例えば「雨が降り始めたら現在お店から半径3kmにいる人達にだけ、3時間だけ有効なこれまでの購買実績に応じた割引率のクーポン券を配信する」というようなことが現実的に可能になろうとしている。