フレームワークを使って物事を考えなくても、普段の仕事や生活に別段、支障はない――。これが多くの人の率直な感想かもしれない。ただ、対極にある「単なる思いつき」の弊害を考えれば、フレームワーク思考の重要性に気づくのではないだろうか。

思いつきで生まれた発想は、第三者に伝わりにくい。自分の中では確固たる根拠があっても、他人にはそれらがどのような思考回路で生み出されたのかが見えず、不要な混乱を招いてしまう。そればかりでなく、思いつきに頼っていると、過去の経験など限られた領域から発想することになるため、領域外のアイデアが浮かびづらい。

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そのようなときにぜひ活用したいのがフレームワークだ。フレームワーク思考とは、枠組みを利用して体系的に物事を考える手法である。思いつきが自分の狭い視野に頼った属人的な発想法であるなら、フレームワークは客観的・俯瞰的な白地図を用意して、それに沿って考えを整理したり深める思考法といえる。

フレームワークを使うときに意識したいのは、MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)という概念だ。直訳すると「相互排他的で、完全な全体集合」だが、要するに「漏れなく、ダブりなく」と考えてもらえばいい。

では、ここで例題をひとつ挙げよう。デパートの売り場は、はたしてMECEになっているだろうか。

デパートの売り場は、地下に食品、1階に化粧品というようにジャンル別で構成されており、一見MECEに思える。しかし、高価な皿は食器コーナーのほかに贈答品コーナーに置かれているなど、ダブりもたくさんある。MECEに見えて、じつはそうでないのだ。

デパートはお客への訴求力や動線を重視して売り場をつくるため、厳密にMECEで整理する必要性は低い。しかし、たとえば「新規顧客獲得のために、これまで扱っていなかった商品を売ろう」と考え始めると、MECEでないことが思考の邪魔をする。扱っていない商品をリストアップしようとしても、これまでどこに漏れがあったのか、思いつきで挙げていくしかないからだ。

普段の打ち合わせでも、それぞれが思いつきで話せば議論がかみ合わずに時間を浪費するだけだ。このようなとき、フレームワークを使えばこれまで目の届かなかった部分に光を当てたり、第三者と認識を共有することが可能になる。

(構成=村上 敬 撮影=相澤 正)