カッコ悪く情けないオヤジが最後にはカッコいい

固定観念に縛られず「自分という過去」をつくっていけばいい<br><strong>宮本亜門 演出家</strong>●NYで手がけた「太平洋序曲」が2005年トニー賞4部門にノミネート。09年2月12~15日東京文化会館大ホールにてオペラ「ラ・トラヴィアータ」を演出予定。
固定観念に縛られず「自分という過去」をつくっていけばいい
宮本亜門 演出家●NYで手がけた「太平洋序曲」が2005年トニー賞4部門にノミネート。09年2月12~15日東京文化会館大ホールにてオペラ「ラ・トラヴィアータ」を演出予定。

僕は50歳ですが、年齢は単なる数字にすぎないと思っていて、あまり意識したことはありません。気持ちは常に20代のつもりで、若い頃と同じドキドキ感を持ち続けたいと思っています。

103歳で亡くなった料理研究家の飯田深雪さんに「どんな思いで年を重ねてこられたんですか」と、生前、お尋ねしたことがあります。答えは「楽しくて年なんか忘れてしまったわよ」。僕はその言葉に深く共感しました。年齢を気にするよりも、生き生きと人生を楽しんでいる人のほうが魅力的だし、目や言葉に前向きなエネルギーがあふれている。だから同窓会で同級生に会ったとき、いちばん変化を感じるのは、容姿ではなく“目力”です。自分の限界を勝手に見つけてしまってあきらめ始めると、どこか寂しげな目になってしまう。苦労して痛々しさを感じさせる人もいますが、苦労したときに、それを乗り越える面白いきっかけがきたのだと思えるかどうかは大切だと思います。カッコ悪くて情けないオヤジが最後にはカッコいいのだし、無様なところも実は人間の魅力なのではないでしょうか。

あるニューヨーカーが、アジア人の中で国籍を当てるのは難しいが、日本人だけはわかると話してくれました。理由は、「日本人は目が死んでいるから」。妙に納まっている印象を受けるのですぐわかるのだそうです。

僕はオペラの演出も手がけていて、2月に上演する「ラ・トラヴィアータ」では、愛おしい人間たちの内面的なところを象徴的に描き出したいと思っています。日本ではミュージカルを観る男性はまだ少数ですが、オペラの客席には中高年男性が目立つようになりました。海外駐在時にオペラを観て、「こんなに面白いのか」とその魅力に目覚めた方が多いようです。人生にはいろいろな楽しみ方があることを感じとっていただきたいし、舞台の感動だけでなく、「花がきれい」「風が心地良い」と素直に感じる心を大切にしてほしい。そんな感動が人生を豊かにするのだと思います。