「かんぽ」の不適切販売はなぜ起こったのか。過剰なノルマ、自爆営業、偽造、恫喝……。高齢者に群がる郵便局員の実態を、朝日新聞経済部が著書『かんぽ崩壊』でリポートしている。

※本稿は、朝日新聞経済部『かんぽ崩壊』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

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「郵便局を信じた母は、だまし取られた」

国の信頼をバックに、人口の2割にあたる約2700万人の顧客を抱えるかんぽ。不正の広がりに、契約者から不安と怒りの声が上がっていた。

「母は郵便局を信頼し、言われるままに契約した。パートで苦労してためたお金をだまし取るような行為だ」。保険を売る郵便局員に、北海道内の50代男性は不信の声を上げた。

近くに住む80代の母がかんぽの保険の乗り換えで不利益を受けたという。2013年12月、局員の勧めで養老保険を途中解約した。死亡保険金が300万円で、保険料が掛け捨てにならない貯蓄性の保険。同じ保険金額の養老保険に乗り換え、保険料は月3万2千円から3万7千円に増えた。

30万円はなんとか返金させたが……

母は当時から物忘れがひどく、契約の2年後に認知症と診断された。契約の際には80代の父が同席したが、男性ら他の家族に連絡はなかった。「母も父も(定期の)貯金が満期を迎えたと思った。内容を理解せず契約させられた」と男性は振り返った。

認知症の診断後の15年12月、男性が両親の貯金などの蓄えを確認した際に、保険の乗り換えが判明。契約書類に「親族が遠方にいて連絡がとれない」と虚偽の内容が記されていることもわかった。

途中解約によって不利益を被った約30万円分が、何とか返金された。ただ、署名を求められた同意書には「今後、一切異議を申し立てない」「一切の事項を第三者に開示しない」などとも記されていた。

後日、男性が郵便局に再び問い合わせると、担当局員は異動し、トラブルの引き継ぎはなし。「問題が現場でフィードバックされていない。被害者は全国に多くいるはずだ」と憤りをみせた。