AI時代の生きる力として教育現場ではSTEMが注目されている。一方で社会人は何を学ぶべきか、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授に話を伺った。

AI時代のビジネス新潮流

自分は文系だからSTEM(科学・技術・工学・数学)やプログラミングは関係ないと考えている人は多いでしょう。たしかに、ビジネスパーソン全員がSTEMやプログラミングを学ぶ必要はありません。ただ、テクノロジーに関しては別。基礎的な知識を持っていないと、ビジネスの潮流がわからなくなるおそれがあります。

なかでも知っておくべきテクノロジーは、やはり人工知能(AI)です。なぜいま急にAIが浮上してきたのか。大きいのは、ディープラーニングの進化です。従来は、人間に指示された着目点によって学習を行っていましたが(マシンラーニング)、いまのAIはビッグデータをもとに学習を繰り返し、そこにある規則性や関連性を自律的に見つけ出します。

では、AI時代にビジネスをリードするのはどのような企業でしょうか。じつはAIのアルゴリズムや、それを開発する優秀なエンジニアだけでは決定的な差別化の要因になりません。AIの成長に大きな影響を与えるのは、学習のもとになるビッグデータの量です。つまり、大量のビッグデータを有する企業がAI時代の勝ち組になるわけです。

その観点を持つと、米中メガテック企業の競争の行方も見えてきます。現在、世界はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)が支配的立場で、それを中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が追う勢力図になっています。これらの会社は当然AIの開発に力を入れており、その点では甲乙つけがたい。

しかし、将来的なビッグデータ量はどうでしょうか。アメリカでは、利用者の知らないうちに企業が個人情報を利用する例が相次ぎ、それに対する反発が強まっています。その流れを受けて、アップルやマイクロソフトは個人情報の利活用を制限することを発表しています。一方、中国は国策としてビッグデータ活用を進めているので、パーソナルなデータをどんどん取得できます。この点ではBATHが有利。いずれBATHがGAFAを逆転する可能性は十分にあるのではないでしょうか。

算数レベルの知識から始める

冒頭で述べたとおり、テクノロジーの知識は、混沌化するビジネスの世界を理解するヒントになります。文系であっても、最低限の知識は身につけておくべきです。

では、それ以外のSTEMやプログラミングはどうでしょうか。いずれも知識があって使いこなせるのに越したことはありませんが、いままで理系の教育をあまり受けてこなかった文系の社会人がいきなりSTEMやプログラミングに飛びついても、なかなかものにならないと私は思います。