これまで車いすに乗る人は、車いすの金属が空港の保安検査場で検知器に反応するため、必ずボディーチェックを受けていた。だが日本航空(JAL)は全身チェック不要の「木製の車いす」を2017年に導入。現在323台が稼働しており、利用者の通過ストレスの軽減に役立っている。なぜ「木製」だったのか。JALに聞いた――。
JALの木製車いす。白樺と樹脂を使用している(撮影=プレジデントオンライン編集部)

“木の車いす”が現れた

空の玄関口と呼ばれるエアポートで、一風変わった車いすを目にする機会が増えた。日本航空(JAL)が導入した“木の車いす”だ。

「木製車いすの企画が持ち上がったのは、2016年の1月頃。そこから福祉メーカーのキョウワコーポレーションさんと共同開発して、2017年6月に導入しました。木製車いすは現在、お客さまを機内までご案内できる“アイル(通路)タイプ”が260台、それよりも幅が広い自走用の“ワイドタイプ”が63台の計323台が全国で稼働しています」

そう話すのは、木製車いすを担当する空港企画部旅客グループの黒木香奈さん。JALでは既存の金属製車いすと木製車いすの入れ替えが、着々と進められている。

入れ替えの理由は搭乗前の「保安検査」だ。金属製の車いすでは保安検査場の金属探知機をそのまま通過できない。非金属製の車いすがあればスムーズに検査を通過できる。

保安検査での車いす利用者の苦痛

筋力が低下していく難病「筋ジストロフィー」を患う小澤綾子さんは、JALの木製車いすをみたとき「スゴイ!!」と感想を持ち、下記画像のようにツイートした。

あらためて小澤さんにメールで質問したところ「JALの木製車いすは、見た目もかわいくて、検査場を通るのが楽しみになりました。実際に保安検査で音を鳴らさず通過できたときは、感動して思わず写真を撮ってしまいました。旅行のテンションを下げることなく、楽しく快適な旅になりました」と答えてくれた。

さらに空港の保安検査については「飛行機に乗るのは好きで楽しみなのですが、保安検査が苦痛で仕方がありませんでした」という。

「金属性探知機を通るとき、音がなるので目立ちますし、同性の方がボディーチェックをするとはいえ、胸まで含めて全身触られるのは不快でした。検査で引っかかるとわかっていながらも通らなくてはいけない、そしてそれを我慢しなければならない。なんだ、それっぽっちのことと思われるかもしれませんが、当事者にとっては大きな心の負担でした」

非金属製の車いすは「あったら便利なもの」ではなく、必要不可欠なものなのだ。実際にJALは2011年に竹製車いすを一部空港に配備しており、全日本空輸(ANA)も樹脂製車いすを2016年に採用している。そうしたなかでJALは、木製車いすへの切り替えを進めている。なぜ竹でも樹脂でもなく“木”なのだろうか。