吉本新喜劇のおもしろさは、どこにあるのか。それは観客との共感だ。芸人たちは常に観客の反応を確認し、「共感ポイント」を探してネタに手を加える。そのためには場面設定も重要だ。吉本興業の元広報マンの竹中功氏は「お客さんが想像しやすいように、舞台を新聞社から喫茶店に変えたこともある。“生”の経験に勘を加えて、即座に行動を変化させるのが大事」と話す。吉本芸人から学ぶ、共感の技術とは――。

※本稿は、竹中功『他人も自分も自然に動き出す 最高の「共感力」』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

吉本興業は寄席小屋経営からスタートした

私が在籍していた吉本興業という会社の基幹産業は、「寄席小屋経営」である。100年以上前に大阪の天満宮裏に小さな寄席小屋を手に入れた。それが創業期である。

その後、観客を増やし、小屋を増やし、それを繰り返した。そして、それに合わせて面白い芸人の所属が増え、お笑いがあふれかえる「寄席小屋」が最強になっていったのだ。それが、現在の大繁盛につながっている。

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その寄席小屋が、戦前なら映画やラジオ、戦後ならテレビ、最近ではインターネットと共存することで、多くの人に多くの種類のお笑いをお届けしてきた。

第二次世界大戦終戦後、多くの芸能事務所が設立され、最近では音楽事務所もお笑いタレントを抱えるようになってきたために、吉本の独占状態は崩れつつある。しかし、いまもって国内のどこの事務所も真似のできない仕組みが、この「寄席小屋経営」を基本としたビジネスモデルである。

「自前主義」の経営が隆盛を築く

365日休みなしのお笑い公演を十数軒の小屋で毎日数ステージを行っている。これを「基礎体力がある企業」とひと言で片づけてはならない。それをまた「ハードウェアである小屋を持っていられるとか、ソフトウェアである所属芸人が多いからできる」とひと言で済ませてはいけない。

実は、他事務所の芸人などを借りることもなく、自前の芸人ですべての番組(出番)編成を行い、劇場の運営も自ら行っているというように、他の事務所にはない寄席小屋経営のノウハウが蓄積されているからこそ、現在の隆盛を築いているのである。

2017年秋から半年間に渡り放送されたNHKの朝ドラ『わろてんか』でも描かれたが、寄席小屋経営とは、小屋を持ち、人気芸人を舞台に上げ、「木戸銭(入場料)」と「お笑い」を交換する経済行為である。