足切り額が一気に下がった

ビジネスパーソンにとって、医療費控除は数少ない節税策のひとつ。もれなく申告をして最大限の税金を取り戻したい。

申告の際に悩ましいのは、どんな費用が認められるか。

判断基準になるのは「治療に必要」かどうか。たとえば、人間ドックの費用。通常は対象外だが、検査で病気が見つかり治療をした場合には、対象となる。差額ベッド代も同じだ。医師が「治療上、個室が必要」と判断すれば、対象となる。大部屋が空いておらず、やむをえず個室を利用した場合も認められる。

鍼灸やマッサージの費用も対象だ。疲れを癒やしたり、体調を整えるためなら認められないが、神経痛や五十肩など治療のためであれば認められる。医師の診断書などは不要なので、治療を受けた本人の判断となる。

出産はどうか。通常分娩、帝王切開ともに対象となるが、出産一時金等を差し引いたものが対象となる。不妊治療もOKだ。

治療費だけではない。入院中の世話をしてもらうため付き添いを頼んだ場合は、その費用も認められる。ただし、家族に付き添いを頼みアルバイト代を支払っても認められない。

ところで、医療費控除は年間の医療費が10万円を超えた分が対象となる。大きな病気でもしない限り難しそうだが、生計が同じであれば、親族の分もまとめて申告できる。親族とは、6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族をいう。同居していれば生計が同じだと判断されるが、別居の場合は「仕送りをしているかどうか」が判断基準になる。たとえば、離れて住む年金暮らしの親に生活費の大半を仕送りしているような場合は、対象になる可能性が高い。

また、共働きの場合、収入が低い人が申告をすれば足切り額が下がる可能性もある。医療費控除の足切り額は「10万円または総所得金額等5%のいずれか低い金額」となっているからだ。仮に所得が130万円であれば、130万円×5%=6万5000円となり、この金額を超えた医療費が対象となる。所得が高い人が申告した場合と比較検討する必要があるだろう。

2017年1月からは、従来の医療費控除に加えて「医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)」がスタートした。健康診断等をきちんと受けている人が対象で従来の医療費控除と違う点は大きく2つある。

1つは足切り額が下がったこと。年間合計額が1万2000円を超えたら対象となる。控除額の上限は8万8000円だ。

2つめは、「スイッチOTC医薬品」が対象となること。医師の処方箋がないと服用できなかった特定成分を含む市販薬のことで、対象商品は具体的に決まっている(代表例:ロキソニンS、アレグラFX)。多くの商品パッケージに「税控除対象」のマークが表示され、購入時のレシートにも対象商品であることを示す★印などのマークがつく。具体的な製品名は、厚生労働省のホームページを参考にしよう。

特例も従来の医療費控除も対象になる場合は、どちらか有利なほうを選択できる。両方を申告することはできない。また、特例は17年1月以降に購入した市販薬が対象だから、実際に申告をするのは、来年の確定申告から。今年の申告分では関係がないが、来年に向け領収書をもらっておくことを忘れずに。

宇梶精一(うかじ・せいいち)
大学卒業後、税理士法人山田&パートナーズ等に勤務。2002年税理士登録。08年渋谷税理士法人を設立、代表社員に就任。企業顧問、富裕層向けの相続対策などを行う。
(構成=向山 勇)
【関連記事】
読むだけで9割節約!「医療費のムダ」撲滅法7
「医療費控除」老親の介護費用も対象内?
住民税でバレる副業、「ふるさと納税」で誤魔化せるか
分かりやすく解説! 「確定拠出年金」4ステップ
スーツ代もOK!? サラリーマンの「経費扱い」はどこまで拡がるか