「使い捨て印刷物」蒐集の愉悦

本がなかなか捨てられない。引っ越すたびに苦労するのだが、仕事柄、資料のために必要だとか、また読むかもしれないとか、これは絶版・品切れだから手元に置いておかないと、などと自分に言い聞かせている。でも本当は、ほとんどの本は手放しても問題ないとわかっている。図書館もあるし、必要ならばたいていの本(古本も)はネットで買える。要は本が好きなのだ。本があると落ち着く。本という形、そして紙が好きなのだと思う。装幀、手ざわり、風合い、それぞれに違った表情、味わいがある。

本書は、デザイナー、画家、装幀家、写真家、編集者らクリエーター20数人の、自身の好きな紙と、その紙への思いを紹介する。包装紙、名刺、切手、手帳、カードなどに対して各人が語る思い入れやこだわりは、偏愛といってもいいだろう。

『紙さまの話』大平一枝 (著) 誠文堂新光社

「プリンテッド・エフェメラ」という言葉をはじめて知った。エフェメラとは、「はかない」「短命な」という意味の英語。マッチラベル、牛乳瓶のフタ、トイレットペーパーの包み紙、割り箸の袋、入場券、切符など、長期的に使われたり保存されることを前提としない、使い捨ての印刷物類を指す。印刷用語で「端物印刷」というらしい。

トイレットペーパーの包み紙やマッチラベル、海外の使用済みティーバッグなどを蒐集するエフェメラコレクターの横溝健志氏(武蔵野美術大学名誉教授)は、「包み紙は、消費者に意識されることもなく乱雑に剥ぎ取られて捨てられる。そういうところに端物印刷物としての本領を感じます」とその魅力を語る。はかなさへの愛ということだろう。

実は筆者も一時期、大衆酒場のマッチを集めていたことがある。いまでも、特に地方の店ではもらうことがある。屋号とちょっとしたイラストが書かれただけの素朴なものが多い。もっとも筆者の場合は、はかなさへの愛情などではなく、記念的な意味合いしかないのだが。ただ残念なことに、喫煙者が減っているためだろう、マッチを置いている店は少なくなっている。