仕事や人生で悩んでいる人に、紙に書くことの重要性を指摘すると、

「いまどき紙に手書きするなんて、時代遅れです。パソコンにパッと打ち込んだり、スマホで検索して解決策を探すほうが簡単で効率的ですよ」

と反論を受けることがあります。

たしかに誰かと情報をやり取りしたり、あとで編集が必要になるような文章作成なら、アナログよりデジタルのほうが便利な場面が多いのかもしれません。

ただ、紙に書き出して自分自身を振り返る場合に、便利であるかどうかは、とくに優先度の高い問題ではありません。むしろ私は、問題意識を自分の中に強く植えつけるためには、手間がかかる“手書き”のほうがいいと考えています。

自分を変えたり現状を打破するという目的において、問題をはっきりさせることはゴールではありません。問題が明確になった後も、「自分が抱えた問題はこれだ」という意識を持ち続け、その問題を解決する方法を導いて実践する必要があります。

では、どうすれば問題意識を持ち続けることができるのか。

それにはあえて手書きで手間をかけ、体に覚えさせることが効果的です。

手書きとデジタル入力の違いが記憶に与える影響については、さまざまな実証的研究がなされています。

ノルウェーのスタヴァンゲル大学とフランスのマルセイユ大学では、手書きとタイピングの2つのグループに、20文字の無意味な文字列を暗記させて、記憶がどれくらい正確に残るかという調査を行いました。

テストをしたのは、暗記した日から3週間後と6週間後。記憶した文字列の正しさや思い出すスピードをチェックしましたが、いずれも手書きグループのほうが優秀な結果を残したそうです。