総務省は、新たに有識者会議を立ち上げ、「違法な偽情報」への迅速な対応をIT企業に課す新しい規制策の検討に入った。議論を急ぎ、通常国会での法案提出を目指すという。
しかしながら、これでは、とても十分とは言えそうにない。「違法ではないが有害な偽情報」の対策は、政府による検閲につながりかねないとされ、先送りされたからだ。
縦割りで効果的な対策は打ち出せず
また、総務省の威光は、所管するSNS事業者などIT企業に限られることにも留意しなければならない。
海外から発信された偽情報の対策は外務省、ロシアや中国の情報工作への対応は防衛省、サイバー犯罪の抑止は警察庁、と、担当官庁がバラバラで行政全体としての一体性に欠け、統合的な対策を打ち出しづらい。
偽情報は、AIを駆使して急速に高度化・巧妙化しており、タテ割り行政では、意図的に偽情報を流そうとする勢力に対抗することは容易ではないだろう。
民間の動きも活発になっている。全国の新聞社や放送局がIT企業とともに、信頼できる情報を確立するため、ネット上の記事や情報に発信者を明示する「オリジネーター・プロファイル(OP)」と称する新しい技術の研究を進め、2025年の実用化を目指している。
また、富士通を中心にした東京大学や慶応大学、国立情報学研究所などのグループは、ネット上の情報の真偽を見抜くシステムを構築する産学共同のプロジェクトをスタートさせた。
いずれも期待は大きいが、まだ実証段階に至っておらず、成果を得るまでには時間がかかりそうだ。
表現の自由と葛藤する米国
一方、米国も、これまでの選挙戦で偽情報による苦い体験を重ねてきたにもかかわらず、規制が進んでいるとは言えない。
大統領選前に、50州のうち約20州が、生成AIなどで作成した選挙関連の偽情報を取り締まる法律を制定した。ただ、規制のレベルは、州によってさまざまで、違反者に罰則を定めたところもあれば、AIで生成したことを明示すれば免責されたり、偽情報そのものの流布を禁じないケースもあった。
もとより、連邦政府の法整備となると、検討段階にとどまったままだ。
というのも、合衆国憲法修正第1条で表現の自由が広く認められているからで、行政による規制には抜きがたい葛藤がある。そのうえ、IT企業のロビー活動は猛烈を極め、全米に投網をかけるような規制は成立しにくいという事情がある。
偽情報対策の法規制は道半ばと言わざるを得ない。
相次いでXから撤退するユーザー
こうした中、SNSを代表するXへの風当たりが日増しに強まっている。
2022年10月にXを買収したマスク氏は、表現の自由を掲げ、トランプ氏をはじめ、偽情報の投稿などで凍結されていたユーザーのアカウントを次々に復活させた。また、インプレッション(表示回数)を稼げば収入を得られる仕組みを導入したため、センセーショナルな投稿で耳目を集めて稼ごうとする通称「インプレゾンビ」を大量に生み出した。