日本の比ではない米国の偽情報攻撃
一方、米国の大統領選におけるネット上の偽情報の氾濫は、質も量も日本の比ではなかった。
とりわけ、民主党候補のハリス副大統領が標的にされた。
「ハリス氏は共産主義者」を印象づけようとする偽画像が出回ったが、拡散した中心にいたのは対立する共和党のトランプ前大統領で、Xへの投稿は800万回以上も閲覧されたという。
Xのオーナーで約2億人のフォロワーを持つといわれるイーロン・マスク氏も、自らXに生成AIでつくられたとみられる同様の偽画像とともに「カマラは、初日から共産主義の独裁者になることを誓う」と投稿、トランプ氏を後押しした。オーナーが一方の陣営に肩入れすれば、Xがプラットフォームとしての中立性を保てるはずもない。
ハリス氏が、過去にひき逃げ事故を起こしたという偽動画も流れた。こちらは、マイクロソフトの調査などで、ロシア政府が関与するグループによって作成されたことが明らかになり、国境をまたいだ偽情報による工作が判明。米当局も、社会の分断を狙ったロシアの介入があったことを確認した。ウクライナ支援に消極的なトランプ氏を返り咲かせようという狙いがあることは明らかだった。
ハリス氏を陥れるような偽情報を数え上げたら、キリがない。
「性暴力を受けた」と告発する偽動画も
副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事も、偽情報による集中砲火を浴びた。かつての高校教師時代に生徒が「性暴力を受けた」と告発する偽動画が投稿され、500万回以上も見られたという。
もとより、トランプ氏による虚偽情報の拡散は激しく、「移民がペットを食べている」という根拠不明のデマは、移民に寛容な民主党を直撃した。
共和党陣営の攻勢に加えてロシアの介入による「偽情報攻撃」に、立候補を表明した直後に巻き起こったハリス旋風は急速にしぼみ、一転して窮地に追い込まれた。
そして、トランプ氏が圧勝でホワイトハウスに戻ることになったのである。
日米ともに、偽情報がどれほど選挙の結果に影響を与えたかを定量的に測ることは難しいが、偽情報に翻弄されたことは確かだろう。
IT企業に「お願いベース」では実効性に限界
日本も米国も、行政が手をこまねいていたわけではない。
総務省は衆院選を前に、メタやXなどSNSを運営する5社と、チャットGPTを提供するオープンAIなどAI関連9社に、初めて選挙に関する偽情報対策を要請した。
だが、これまで偽情報対策はIT企業の自主的な対応に委ねてきただけに、強制力も罰則もなく、「お願いベース」では、どれほどの実効性が上がるか疑問視された。
政府・自民党は、1月の能登半島地震で、偽情報に振り回されて適切な救助活動ができなかった反省に立ち、ようやく重い腰を上げて、偽情報対策に乗り出したばかり。